政府は2023年末、東京電力福島第1原発事故の賠償などにかかる費用の想定を約2兆円引き上げ、計約23兆4000億円とした。事故から13年たっても原発では溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しめどが立たず、汚染水の発生も止められない。収束までの道筋が見えないまま、処理費用は膨らみ続ける。想定には仮定や根拠に乏しい部分が多く、東電に10兆円単位の負担が可能なのかも不透明。国民負担が増大していく恐れもある。(小野沢健太)
◆賠償は1.3兆円増 処理水海洋放出の影響が拡大
22年3月に最高裁が東電の上告を退け、被災者への賠償額の目安となる指針が見直され、東電の賠償額は増えた。23年8月には福島第1原発の汚染水を処理した水の海洋放出が始まり、追加の賠償が必要となった。中国は日本産水産物の輸入停止を続けており、風評被害の規模はどこまで広がるかは見通せない。
賠償費用は、国が国債発行によっていったん立て替え、電力各社は毎年の負担金で返済しているが、まだ3分の1しか回収できていない。
◆除染は4兆円 帰還困難区域の国費除染は含まれず
除染費用は4兆円とされているが、国が負担する帰還困難区域の除染は含まれていない。2024年度までの国費による除染は約4100億円となる見通しだが、同区域の除染はまだ続いており、どこまで膨らむかは分からない。
◆中間貯蔵は0.6兆円増 除染で出る汚染土の量は見通せず
今後も続く帰還困難区域の除染は、帰還の意向を示す被災者の数によって変動するため、発生する汚染土の量も見通せない。
大熊町側の中間貯蔵施設
◆廃炉は8兆円 原子炉建屋解体は想定せず
8兆円には原子炉建屋の解体費用や取り出したデブリの最終処分費用などは含まれず、全体像は見えない。これとは別に、国費による事業もある。
原子炉建屋への地下水流入を減らすために1~4号機を囲む凍土壁には国費345億円が投入されたが、効果は不透明
2号機のデブリ取り出しに向け、ロボットアーム開発などには国費78億円。アームの性能不足が解消されない
◆東電の負担分は16兆円超 遠く及ばない収益目標
東電は賠償の約半分と除染、廃炉の各費用で16兆円規模を負担する見通しだ。
その原資の柱は、柏崎刈羽原発の再稼働。1基動けば年間1100億円の経営上のプラスになると試算する。テロ対策不備による運転禁止命令は解除されたが、再稼働に必要な立地自治体の同意は見通せない。経常利益の目標額は、事故前にも達成したことがない。
政府は、保有する東電株の売却益で除染費用をまかなう腹積もりだが、目標株価のまだ半分程度だ。
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