「福島を見て!と怒りを込めて歌いたい」子どもたちが浪江町訪問 原発事故テーマに4月、ミュージカル公演(2024年3月10日『東京新聞』)

 
 きゃっきゃ騒いでいた子どもたちの表情が変わったのは、天井や床が抜け、足を踏み入れることができない台所や居間を見た時だった。原発事故をテーマにしたミュージカルの出演者らが、福島県浪江町の山あいにある津島地区の三瓶春江さん(64)の家を訪れ、その言葉に耳を傾けた。ある子は「怖い」と漏らし、別の子は言った。「福島を見て!と怒りを込めて歌いたい」(片山夏子)
 
長い避難の間、天井や床が抜け、動物に荒らされた三瓶春江さんの津島の家を見るミュージカルのメンバーら

長い避難の間、天井や床が抜け、動物に荒らされた三瓶春江さんの津島の家を見るミュージカルのメンバーら

◆帰還困難区域の津島地区、荒れて住めなくなった家

 津島地区は、東京電力福島第1原発から北西に約30キロ。冬は雪深く、春には山菜、秋はキノコなど山の恵みが豊かな場所だ。2011年3月の原発事故は、静かな山村を一変させた。放射能汚染により全域が帰還困難区域に。23年春に地区の1.6%に当たる中心部の避難指示が解除された。
 「帰るか、帰らないかの決断を迫られ、200年も400年も続いた家もあるのに、自分の代で壊すのかを短い期間で決めなくてはならない」
 三瓶さんの家は解除区域内にある。原発事故後、避難先を転々とし、今は福島で家族と暮らす。義父の建てた家族の思い出が詰まった家は傷み、住める状態にない。公費で津島の家を解体する申請期限が4月1日に迫り、泣く泣く家を取り壊す決断をしたという。
 
三瓶さんの津島の家。取り壊しが決まっている

三瓶さんの津島の家。取り壊しが決まっている

◆「私が住んでいる所で原発事故が起きたらどうなっちゃうの」

三瓶春江さん(右端)の津島の家を訪れたミュージカルのメンバーら。長年の避難で天井や床が抜け、取り壊しが決まっている。気づいたことを伝える女の子

三瓶春江さん(右端)の津島の家を訪れたミュージカルのメンバーら。長年の避難で天井や床が抜け、取り壊しが決まっている。気づいたことを伝える女の子

 3歳〜小学4年生の子どもや大人20人余りが、三瓶さんの説明を真剣な表情で聞き、ノートに鉛筆でメモを取る姿もあった。三瓶さんが言葉を続けた。
 「除染して避難指示を解除するといっても、放射線量は事故前より高いまま。田畑で野菜も米も作れない。ガソリンスタンドもお店もない。どうやって生活したらいいのかと思う…」
 子どもたちは三瓶さんの家の中を案内された。柱に子どもたちの背丈を測った印の残る家は事故後、動物に荒らされ、住めなくなった。東京都港区の小学1年西川来杏(くれあ)さん(7)は「原発事故があって、家が壊れて、家族を亡くしたりばらばらになったりして、それでも逃げて頑張って生きようとしたのはすごい。どうしてこんないい所に原発ができたのか。(故郷に帰れぬまま)死んじゃった人のことを考え、心を込めて歌いたい」と話す。
 
 港区の小学4年小屋壱葉さん(9)は、考えつつ言葉をつないだ。「私が住んでいる所で原発事故が起きたらどうなっちゃうのか。家は畳が外れているし床も抜けているし、動物も入って怖かった。もっと福島のことを心配したり応援したり、助けてあげたい」
 津島を初めて訪れた指揮者の掛川陽子さん(76)は「10年以上たってもこの状態なのかと驚いた。小学生に難しいところもあったけど、一緒に来てよかった」と語った。

◆公演は4月28日、東京都北区の北とぴあ

三瓶さん(手前中央)の津島の家などで思いや現状を聞いたミュージカルのメンバーが感想やお礼を伝えた

三瓶さん(手前中央)の津島の家などで思いや現状を聞いたミュージカルのメンバーが感想やお礼を伝えた

 津島地区を訪れた子どもたちが出演するミュージカル「バックトゥザ・フーちゃんⅡ」は4月28日、東京都北区の北とぴあで上演。「愛知子どもの幸せと平和を願う合唱団」のメンバーが中心で、東京都内の子どもたちも参加する。
 原発事故の被災者の体験談を基にした1作目は、子どもたちが原発がない過去に戻り、原発を考え見つめる物語。続編「Ⅱ」は、その子どもたちが大学生となって原発のある架空の町を舞台に、被災者の怒りや悲しみと向き合いながら町の未来を考える。
 
今も約98%が帰還困難区域のままの津島地区について説明をする三瓶春江さん(中央手前)

今も約98%が帰還困難区域のままの津島地区について説明をする三瓶春江さん(中央手前)

 開演は午後2時。一般2500円、高校生以下・障害者と介助者1人は1000円。問い合わせは、実行委員会事務局の小野寺協同法律事務所=電03(3818)6151=へ。公演の成功に向けて寄付を募るクラウドファンディングもしている。