<米保守の潮流>
11月5日の米大統領選まで半年を切った。民主党のバイデン大統領(81)と共和党のトランプ前大統領(77)による異例の再対決は、接戦が予想される。一度敗れたトランプ氏はなぜ返り咲きを狙うまで保守層の支持を集め、保守政治をどこに導こうとしているのか。南山大外国語学部の森山貴仁准教授と考えた。
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◆レーガン氏勝利が歴史的転換期
【森山貴仁准教授寄稿】 1960年代の米国では社会運動が盛り上がり、人種や性差別の是正が進んだ。だが、こうしたリベラルな潮流に反発した宗教右派や、旧来の家族や共同体の形を求める伝統主義者らは保守の政治家を求めるようになった。
80年の大統領選挙で共和党のロナルド・レーガン氏が勝利すると、米国政治は転換期を迎える。リベラルに対抗するレーガン政権は「小さな政府」を訴えて福祉政策を縮小。富裕層を優遇する大型減税を実施して経済格差を広げた。その一方で「強いアメリカ」を目指し、旧ソ連など敵対勢力には強硬姿勢を強め、軍事予算を大幅に増やした。
◆共通項は「アウトサイダー」
たしかに2人には共通点が多い。トランプ氏が繰り返し口にする「アメリカを再び偉大に」(Make America Great Again=MAGA)は、もともとレーガン氏のスローガンだった。またトランプ氏はレーガン氏と同様、大型減税を実施し、人工妊娠中絶や同性婚に反対する宗教右派から支持を得ている。
2020年1月、オハイオ州での集会で演説するトランプ氏
◆違いは権威主義への寛容さ
最も異なるのは外交政策だろう。冷戦期にレーガン氏が旧ソ連との対決を鮮明にしたのに対して、トランプ氏は在任中、アフガニスタンからの米軍撤退を決定し、今ではロシアに侵攻されたウクライナの支援にも消極的だ。
◆反リベラルの波が向かう先は
トランプ氏とMAGA派の権威主義的な傾向は、国内の反民主主義的な勢力への対応にも表れている。
白人至上主義を容認する姿勢は、2020年大統領選の結果に不満を募らせたトランプ氏支持者らによる連邦議会襲撃事件に見られるように、民主主義を揺さぶる暴力まで招いた。クー・クラックス・クラン(KKK)などの極右と距離を置いたレーガン時代の保守と比べると、隔世の感がある。
とはいえ、こうした反リベラル、反移民・反グローバルや権威主義への寛容な風潮は、トランプ氏が政治の表舞台に出てくる以前にも存在していた。トランプ氏はこの波に乗って大統領になった人物であり、潮流そのものを起こしたわけではない。
言いかえれば、いつかトランプ氏が政治から退場する日が来ても、米国から権威主義や反民主主義の動きが消滅するとは限らないのである。今後、トランプ氏以上の強硬派が出現することすらあり得る。
トランプ派は、そして共和党はこれからどこへ向かうのか。そして米国の民主主義はどうなるのか、大統領選を超えて注視する必要がある。
森山貴仁(もりやま・たかひと) 南山大外国語学部准教授。大阪大文学部卒、京都大大学院修士(人間・環境学)、米フロリダ州立大歴史学研究科修了、Ph.D。南山大アメリカ研究センター員を兼務。専門は米国政治史、保守主義研究。近著『ダイレクトメールの帝国:アメリカ保守の政治マーケティングと草の根の変容』(University Press of Kansas、未邦訳)で、若手研究者の優秀作品に贈られるアメリカ学会清水博賞を受賞。
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◆勝敗を握る7つの激戦州 大統領選の仕組みは?
正副大統領を決める4年ごとの選挙で、投票は「11月の第1月曜日の翌日の火曜日」と法律で決められている。有権者は各党の大統領・副大統領候補のペアを選んで投票するが、単純に総得票数が多い方が勝つわけではなく、州ごとに、票数に基づいて各党が獲得する「選挙人」の数が勝負を決める。
選挙人の総数は538人。全米50州に、それぞれ連邦議会の上下両院議員と同じ数(ワシントンは特別区として3人)が割り振られている。東部メーン、中西部ネブラスカ両州以外は1票でも多く獲得した候補者がその州の選挙人を全て獲得する「勝者総取り」方式を採用。全米で過半数の270人以上の選挙人を獲得した候補が当選者となる。
政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」がまとめた平均支持率によると、4月末現在、7州いずれもトランプ前大統領がバイデン大統領をわずかにリードしている。