玄海町と核ごみ 国の焦り透けて見える(2024年5月12日『北海道新聞』-「社説」) 

 佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長が、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた文献調査を受け入れる考えを町議会で表明した。
 文献調査が実施されれば、後志管内寿都町神恵内村に次いで全国3例目となる。玄海町には九州電力玄海原発があり、原発の立地自治体では初めてだ。
 最終処分場選定に関する国の「科学的特性マップ」で玄海町は大部分が不適地だ。地下に石炭があり、将来採掘されて最終処分場に影響する恐れがあるためだ。
 にもかかわらず、国は町議会の請願採択を受け、文献調査を申し入れた。あくまで科学的、客観的な見地から選定することを目的にマップを作ったはずだ。
 結局、処分場選定が進まない焦りから、過疎地に押し付けるかのような構図が透ける。
 本来のエネルギー政策の姿からは程遠い。国は選定の手続きを抜本的に見直すべきだ。
 脇山町長は「国全体の議論を起こす一石になればとの思い。お金(交付金)目的ではない」と説明した。「一石」との考えは片岡春雄寿都町長も語っていた。
 だが国民的議論が起こる気配はない。調査を受け入れた自治体の問題として既成事実化する一方、賛否を巡って住民同士や近隣自治体との分断が進む負の側面が浮き彫りになっている。
 玄海町議会が先月賛成多数で採択した請願は、旅館組合など地元3団体から提出された。「高レベル放射性廃棄物の発生原因を有する自治体の責務」だとして、文献調査への応募を求めた。
 そもそも原発の電力は都市部を中心に広い地域で享受されており、原発立地自治体に責務があるという理屈は通らない。
 原子力発電環境整備機構(NUMO)は調査地を増やそうと全国を行脚している。原子力へのアレルギーが比較的小さいと見て、原発立地自治体を狙い撃ちするようなことはあってはならない。
 地殻変動が激しい日本で、核のごみが無害化する10万年もの間、地下に封じ込める地層処分は不可能だと指摘する専門家もいる。
 日本学術会議は廃棄物を地上に50年間暫定保管し、最終処分のための合意形成や適地選定、リスクの評価を行うよう提言している。
 地層処分の妥当性をはじめ、事実上破綻している核燃料サイクル政策、核のごみを増やす原発回帰の方針を含めて、国は根本から考え直さねばならない。