【震災13年 県芸術祭】文化を復興の力に(2024年3月8日『福島民報』-「論説」)

 県内最大の芸術文化の祭典「県芸術祭」は新年度、相双を重点地区に開かれる。メインの開幕行事は9月1日に富岡町で予定され、63回を数える歴史の中で初めて双葉郡が会場となる。東日本大震災東京電力福島第1原発事故からの復興へ歩む住民らの心を伝え、文化の力を次世代につなぐ機会にしてほしい。

 県芸術祭は、県芸術文化団体連合会などが毎年6~12月に開き、各地で音楽、美術、文学などの主催・参加行事を繰り広げる。2023(令和5)年度は115行事に約9万5千人が来場し、重点地区の会津での開幕行事には約800人が参加した。

 双葉郡では50周年の2011(平成23)年度、楢葉町で開幕行事が予定されたが、震災と原発事故で中止となった。惨禍から13年近くを経ても芸術文化の再生は道半ばにあり、新年度の郡内開催には慎重意見もあったという。しかし、被災地に目を向けてもらい、現状や思いを率直に伝える好機と捉え、受け入れが決まった経緯がある。

 相双では今も地元を離れて暮らす住民が多い。そんな中、途絶えた郷土芸能を帰還者らの手で復活させる取り組みが広がる。演劇やアートなどを通した新たなまちづくりも動きだし、移住者や子どもたちが参画する姿も見受けられる。避難先で音楽を学び、国際的に活躍する演奏家に成長した若者もいる。芸術祭では、先人から受け継いだ伝統とともに、郷土の将来を照らす文化の芽吹きも感じたい。

 相馬野馬追は震災や原発事故、新型コロナ禍の影響を受けても関係者の熱意で守られ、今年は5月開催にかじを切る。転機を迎えるとも言え、相双の文化的風土に改めて関心が集まる可能性がある。芸術祭に向けては、地元住民はもとより多くの避難者や県民が足を運び、心の復興を共有できるような取り組みを求めたい。被災地の歩みや教訓を学ぶホープツーリズムとの連携も考えてはどうか。

 新年度は、浪江町を拠点とする福島国際研究教育機構(F―REI、エフレイ)の研究者や家族を受け入れる準備が前進する。芸術文化の視点は快適な生活環境づくりに欠かせない。転入者や帰還者を温かく迎えるまちづくりの足掛かりとしても芸術祭を盛り上げたい。(渡部育夫)