東京電力福島第1原発事故による福島県の被災地の居住人口に占める女性比率が全国の中で突出して低い実態が取材から浮き彫りになった。
現役世代の女性の都市部への流出という地方共通の傾向が避難で加速した上、原発の廃炉作業や復興事業に携わる単身男性が多いためとみられる。
男性主体の復興が、女性たちに息苦しさを感じさせ、古里への足を遠のかせていないか探った。
原発周辺の女性比率42%
第1原発周辺の福島県7町村の居住人口の男女比を毎日新聞が調べたところ、女性の割合は42%で、自治体によっては32%のところもあった。女性比率の全国平均は51%(最新の2020年10月国勢調査)で、45%を切るのは全国約1700市区町村のうち、25町村だけだ。
原発事故により一時全域に避難指示が出た7町村に、2023年12月31日または24年1月1日時点の居住人口を尋ねた。
合計は男性が6679人、女性が4847人で、女性比率は42%。
町村別に見ると、低い順に、大熊町32%▽富岡町37%▽双葉町、浪江町40%▽楢葉町、葛尾村45%▽飯舘村48%だった。
20年10月の国勢調査でも女性比率が低かった1~3位が大熊町、富岡町、浪江町だった。この時点と比べた7町村の現在の女性比率は、22年に居住可能となった双葉町を除きいずれも上昇か横ばい傾向だが、全国的に突出して低い状態は変わっていない。
また、大熊町には住民票のない廃炉作業の関係者ら約500人も暮らすが、男女比が不明で集計外としており、実際の女性比率はさらに低い可能性がある。
議員の女性比率も2.7%
意思決定の場にも女性は少ない。7町村議会の現有議員に占める女性の比率は2.7%(74人中2人)で、町村議会の全国平均12%(22年末時点)を下回る。
7町村の最新の復興計画や振興計画の策定委員の女性比率も、飯舘村が3割で、他はそれぞれ1~2割強。県内の自治体の首長も全員男性で、国と地元が復興を協議する会合も出席者の大半が男性だ。 7町村の居住人口の合計は震災前の2割に満たない上、20年国勢調査では20~50代の女性比率が特に低かった。
単身男性が多く出産期の女性が少ない現状は、将来的な人口減少の加速にもつながる。福島大の前川直哉准教授(ジェンダー論)は「企業や研究機関を誘致し人を呼ぶ復興まちづくりに『働き手の男が増えれば、女もついてくるだろう』という発想は潜んでいないだろうか。女性の少なさが、男女の格差や偏見を強めるおそれもある。
男性主体の復興を脱するには、意思決定の場に女性を多く参画させ、やりがいを持ち働ける場を増やすことが大切だ」と指摘する。
浪江記録誌、94人中11人のみ
浪江町は2017年春に町中心部の避難指示が解かれたが、多くの町民が今も避難先に生活基盤を移したままだ。原発事故前約2万1500人だった町内の居住人口は現在約2200人にとどまる。男女比はおよそ3対2だ。
町は21年、東日本大震災と原発事故から10年の節目に「震災・復興記録誌 未来へつなぐ浪江の記憶」を刊行した。237ページの分厚い冊子には、全町避難から、避難先での生活、避難指示解除後までの状況が記されている。
町民が避難生活や復興への決意を語るインタビューも随所に盛り込まれ、巻頭には、当時の町長の「皆さんの『ふるさと浪江』への想いをしっかり反映したいと考え、町の各地区、さまざまな世代、立場の方々から話を伺った」というあいさつ文も載る。だが、行政区長や団体・企業代表ら肩書のある年長の男性ばかりで、女性は94人中11人しか登場しない。
「避難、そのとき私たちは。」の項目では、当時の町幹部ら男性5人が発生1カ月を振り返り、「避難所では男性が大抵分配を仕切っているから女性の方が困っていましたね」との証言が載るものの、女性本人の言葉はない。町民の70代女性は「見知らぬ土地での育児や介護に苦労し、仮設住宅で見守りや集会運営に奔走した女の人はたくさんいたのに」と話す。
「震災前の進め方に戻った」
町は第1~3次復興計画を策定してきた。それぞれ町民や有識者から策定委員を選び、第1次は公募の21人を含む約100人、第2、3次はそれぞれ約20人の委員がいた。だが、いずれも女性の比率は1割程度だった。第2、3次では公募はなかった。 第1次で委員を務めた佐藤博美さん(53)は震災時、町の小学校で唯一の女性PTA会長だった。
避難していた山形県から福島県内で開かれる計画策定のための会合に参加し、
「もっと若者や女性を呼んでほしい」と訴えたこともあった。
復興事業が進む一方、行政は避難を続ける住民の声を聞くことが年々難しくなる。
だが、橋渡し役となる15人の町議や49ある行政区の区長に女性は一人もいない。佐藤さんは「全町避難中は国も町もいろんな住民の声を施策に反映させようという雰囲気があった。 でも、避難指示が解除された後は震災前の物事の進め方に戻ってしまった気がする」と指摘する。
帰還の意向は世帯主が回答
内閣府の男女共同参画局は2020年、自治体に向けた「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」を作成した。復興計画の策定・改定時は「委員会の女性を3割以上にする」「住民一人一人を対象としたアンケート調査などで女性の意見を把握する」ことなどに取り組むべきだと盛り込んだ。また、きめ細かな復興や防災のためには「男女別データの収集や分析が必須だ」とも記している。 しかし、避難指示が出された福島県12市町村の住民を対象に復興庁が実施してきたアンケートでは、世帯主が回答する方式が13年度以降、現在も続く。帰還の意向や必要な施設を尋ねるもので、年平均約2800万円を費やす大規模な調査だ。近年は五つ前後の自治体で実施されている。 調査初年度の12年度は多くの自治体で全住民に調査票が配られ、回答者の男女比も半々で50代以下が約5割だった。それが13年度から全自治体で世帯主が回答する方式に切り替わると、回答者の7割前後を男性が占め、60代以上が大半になった。
「女性や若者の声聞けるのか」
土屋品子復興相は2月27日の閣議後記者会見で調査に触れ、「今後も被災者に寄り添い、しっかり一人一人の意向を聞く」と話した。
だが、双葉町の20代女性は取材に「同居する祖父か父が書いていると思うが、質問を見せてもらったことも回答内容を相談されたこともない」と話す。
夫と暮らす富岡町の60代女性も「家族一人一人の帰還の意向や要望を書こうにも書けない。これでどうやって女性や若者の声を聞けるというのか」と首をかしげる。
この調査結果は、各自治体が策定する復興計画で、避難指示解除後の人口予測に使われてきた。複数の自治体で、世帯主の答えた帰還希望率をそのまま住民数に乗じて帰還人口を算出した。
世帯主の男性に帰還の意向があるのに妻や子に意向がないため単身で帰還したり帰還を断念したりして、調査と実態の差が開いた可能性がある。 復興庁の担当者は「当時の担当ではなく詳細は知らないが、帰還は世帯単位で動くことが多いため、世帯回答に変わったのでは」と話し、今後、方式を変える予定もないという。
「立場問わず地域づくりを」
大熊、浪江、富岡、双葉の4町には、移住したり帰還したりしてきた女性たちでつくるグループがここ数年の間に発足し、プライベートで交流している。
今年2月には4町の女性8人が対談するイベントも開かれた。美容室やランチなどの話題を和やかに語りつつ、男女比の偏りゆえにドラッグストアの化粧品売り場が狭いことへの言及や、「女性が少ない地域で『一人じゃない』と思える活動をしていきたい」といった発言もあった。
大熊町に移住した谷田川佐和さん(27)はイベントで進行役を務め、「職場や地域で困りごとがあるとか、居住を考えている女性がいたらつないでほしい。戻ってよかった、移り住んでよかったと思えるような、温かい雰囲気をつくっていきたい」と呼びかけた。
女性が生きづらい地域に未来はない。まして原発事故被災地には帰還、避難、移住という立場の違いによるすれ違いなど、ジェンダー以外の分断も見え隠れする。
富岡町の40年ぶり2人目の女性町議、高野匠美さん(63)は言う。「昔から『男が上』の地域だった。復興予算で新しい建物を造っても価値観が古いままでは多くの人は集まらない。原発事故で一度壊れてしまったからこそ、男女や立場問わず皆で地域をつくっていかないと」 【毎日新聞・尾崎修二、肥沼直寛】