【経済機密法案】恣意的運用は許されない(2024年3月4日『高知新聞』-「社説」)

 機密情報の取り扱いには慎重を期さねばならないが、情報管理を理由に罰則が科される制度が都合のいいように適用されては問題が大きい。透明性の確保や運用を監視する機能の充実が求められる。丁寧な審議で懸念を拭う必要がある。
 政府は「重要経済安保情報保護・活用法案」を国会に提出した。機密情報の保全を、最先端技術や重要インフラなど経済安全保障分野に広げる。情報の取り扱いを有資格者に限る「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を創設する。
 日本の特定秘密保護法は外交、防衛など4分野の機密情報に限定している。欧米各国は経済分野を含む安保情報全般を規制しており、政府は経済情報への拡大をにらむ。
 米中対立が強まる中、先端技術は軍事、経済面で重要性を増し、人工知能(AI)やサイバー分野などで軍事用と民生用の線引きが難しくなっている。情報保全の制度を整えることに前向きなのは、当局間の情報共有のほか、関連技術の国際共同開発や日本企業の参入機会が増えるとみられるためだ。
 これに対し、安保を理由にした恣意(しい)的な機密指定や過剰指定が行われないか懸念される。機密の範囲があいまいなためだ。
 経済安保情報の漏えいには最長5年の拘禁刑などを科す。より機密性の高い情報は、特定秘密保護法の運用拡大で対応する考えだ。それにもかかわらず、どのような情報が機密に指定されるか明確でないことに、不安の声は経済界からも上がる。機密の拡大で国民の知る権利が侵害されることへの警戒感は根強い。
 適性評価は公務員や研究者、企業の従業員らを対象とする。資格付与を判断するため、犯罪歴や飲酒の節度などの身辺調査を行う。調査がプライバシー侵害につながらないか危惧されている。
 調査は本人の同意を前提とする。しかし、従業員が業務に関連することを拒むことができるのか疑問だ。資格を得なければ職務を続けられないことが想定される。不利益を被ることを防ぐ仕組みがないままでは不安は拭えない。そもそも、同意のないまま調査されるのではないかと不信感さえ漂う。これらを排除しなければ円滑な運用は望めない。
 企業の従業員が重要情報を漏えいした場合は、所属企業にも罰金を科す。秘匿すべき情報に指定する期間は5年で、原則通算30年まで延長できる。機密の指定・解除など具体的な運用基準は法制化後に有識者会議で検討するようだ。対処の仕方によっては企業活動を萎縮させ、本末転倒となりかねない。
 運用監視の仕組みは重要な課題となる。特定秘密保護法に基づき衆参両院には情報監視審査会が設けられた。秘密指定の妥当性などを審査するが、改善勧告に強制力が伴わない。経済安保情報の取り扱いについても国会の関与の在り方を明確にする必要がある。新法案の周知を含め、混乱を招かないように慎重な審議が求められる。