震災13年に関する社説・コラム(2024年3月6日)

【震災13年 相双の農業再生】大区画で進展を(2024年3月6日『福島民報』-「論説」)


 県の大区画ほ場整備事業が相双地方で進められている。省力化につながる大規模経営を普及させ、東日本大震災東京電力福島第1原発事故で被災した農業の再生に弾みをつけるよう求めたい。

 大区画ほ場は、相双地方41地区で計3500ヘクタールの整備が計画されている。このうち南相馬、相馬、新地3市町の8地区計千ヘクタールの整備を終えた。1600ヘクタールは着手済みで、段階的な完了を目指している。残る900ヘクタールは本格着手に至っておらず、全て整うのは2030(令和12)年度が見込まれている。

 当初は2014(平成26)年の事業化後、10年ほどで完了する計画だった。大区画化への要望が相次ぎ、事業規模が膨らんだことで完了時期が大幅にずれ込んだ。要望の多さは営農再開への農家の意欲の表れと捉えることはできる。ただ、第2期復興・創生期間の終了が2025年度に迫る中、財源確保が大きな課題となっている。相双地方の農地再生は道半ばで、2026年度以降も切れ目のない国の支援は欠かせない。

 個人の農家は減少している一方で、農業法人による大規模経営は増えているのが相双地方の特徴としてある。収益を上げるには、コメと野菜などを生産する複合型農業を推進するのが望ましい。

 相双地方は玉ネギ、ブロッコリー、サツマイモと合わせて観賞用のキクの作付面積が拡大傾向にある。浪江町の復興牧場をはじめ、県内での大規模な畜産施設、酪農施設の開設を見据えた飼料用トウモロコシにも注目が集まっている。大区画での栽培に適し、手間もさほどかからない作物とされる。南相馬、新地両市町で先行している生産を被災地全域に拡大すれば、大区画ほ場の収益性の向上にも結び付くだろう。

 帰還困難区域が残る相双地方で、農業の担い手不足は深刻化している。県と市町村、JAは一体でインターネットでの情報発信や短・中期の研修、高校生を対象にした就農相談会などを重ねてきた。南相馬市は4月に雇用就農向けの育成施設「みらい農業学校」を開校させる。就農者の確保は移住、定住の拡大にもつながる。受け入れる農業法人との連携も一層強め、県内外からの担い手の呼び込みにも注力すべきだ。(平田団)

 

震災13年・復興の検証/課題直視して今後に生かせ(2024年3月6日『福島民友新聞』-「社説」)

 各地で災害が相次ぎ、新たな大規模災害の災前、災間と捉えるべき状況だ。国などには、これまでの復興の取り組みの改善すべき点を洗い出し、次に生かしていくことが求められる。

 東日本大震災東京電力福島第1原発事故を巡っては、事前の備えや発生直後の対応の検証が手厚く行われてきた一方、その後の復興を進めていく過程の検証は、十分になされてきたとは言い難い。

 被災地再建は、地元市町村の計画を、県の協議会を経て国が認可する形で進められてきた。地元意向を反映させやすい一方、人員面を含めた行政の力が弱い自治体には計画立案などの負担が大きく、復興が遅れたとの指摘がある。復興に関する地元負担が実質ゼロだったことが過大な施設整備につながったとの声も聞かれる。

 こうした課題は、復興庁の検証のまとめにも掲載されているが、その対応策への言及は希薄だ。問題点の把握にとどまらず、支援の在り方を検討する必要がある。

 地元産業の再建に向けた補助制度「グループ補助金」は、使い勝手の良さから多くの事業者が利用し、その後の災害でも活用されてきた点で評価できる取り組みだった。ただ、被災前の状態の回復を目指して融資を受け、返済が難しくなっている事業所もある。申請の煩雑さを極力避けながら、被災事業者の体力や業種ごとの動向に応じた再建を支える仕組みを強化していくことが重要だ。

 災害が発生すると、被災市町村は目の前の課題への対応で精いっぱいになる。復興庁は、こうした事態への対応として、災害発生時にまちをどう再建するかをあらかじめ決めておく「事前復興」の重要性を指摘している。

 ただ、震災を経験した自治体からは「被災して初めて、何が必要なのかが分かる部分がある。想定通りの被害というのも考えにくい。事前の計画は絵に描いた餅になる恐れがある」と指摘する。その上で「普段から、ほかの市町村や企業との関係構築を進める方がよほど有効だ」と話す。

 能登半島地震では、被災自治体を支える仕組みとして、あらかじめ支援する側の自治体を決めておく対口(たいこう)支援が広がりを見せている。この方法のメリットは災害発生前から関係構築を図っていくことができる点だろう。

 支援する側の自治体が被災自治体の状況を十分に把握できていれば、復興計画を含む幅広い業務にも積極的に関与できるのではないか。普段から自治体同士の関係を深めていくことが大切だ。