昭和1桁生まれの作家、故・半村良さんは自転車に乗るのが好きだったという
▼子どものころから東京中を乗り回し、高校を出て問屋に勤めてからもよく乗ったと書き残す
▼少々危ない走り方もしたようだ。「神楽坂のてっぺんで自転車をとめて、下の信号が変りそうになるのを見すましてブレーキをかけずに一気に走りおりるんです。車の手入れがいいと交差点を突っ切って、こがずに九段高校の裏のほうまで登って行けるんですよ」
▼のどかなころなら大目に見られた乗り方にも、厳しい目が注がれる時代になった。自転車の悪質な交通違反に反則金を納めさせる、いわゆる青切符の取り締まりを始めるべく改正法案が閣議決定された。成立すれば公布から2年以内に施行されるという
▼対象の違反は100を超す。信号無視、一時不停止、ながらスマホの運転…。ながらスマホの自転車が歩行者を死に至らしめた痛ましい事故もあったし、歩いていて高速自転車に肝を冷やすことは珍しくない。この際、マナーが改善され、導入後もお巡りさんの出番が少ないのが望ましいと思える
▼半村さんは自転車愛をつづった文の中で自動車の危なさを憂え、こうも書いている。「人間にはね、不注意に道を歩く権利だってあるんだ」。歩行者優先とは則(すなわ)ち、そういうことかも。車であれ自転車であれ、運転時に思いだしたい言葉である。