「(大統領は)4年目ごとに国中の入れ札にて…(2024年3月7日『毎日新聞』-「余録」)

1860(万延元)年にワシントンで日米修好通商条約の批准書を交換した遣米使節の記念写真

1860(万延元)年にワシントンで日米修好通商条約の批准書を交換した遣米使節の記念写真
共和党の候補者指名を確実にしたスーパーチューズデーの圧勝を受け、演説するトランプ前大統領=米フロリダ州の邸宅マララーゴで、AP
共和党の候補者指名を確実にしたスーパーチューズデーの圧勝を受け、演説するトランプ前大統領=米フロリダ州の邸宅マララーゴで、AP

 「(大統領は)4年目ごとに国中の入れ札にて定めけるよし」。江戸幕府日米修好通商条約の批准書交換のためにワシントンに送った遣米使節の一員が日記に記している

▲一行がホワイトハウス民主党のブキャナン大統領に謁見したのは1860(万延元)年5月17日。大統領選の年でシカゴでは共和党大会が開かれていた。翌18日にリンカーンが大統領候補に指名され、本選でも当選を果たした。翌年に南北戦争が勃発するとは知る由もなかった

▲咸臨丸を率いて同行した勝海舟は首都には行かなかったが、指導者の選び方に好印象を抱いたらしい。帰国後に老中から米国の印象を聞かれ、「賢い人が上にいる」と答えて不興を買ったという

▲大統領選候補を選ぶ15州の予備選などが集中した「決戦の火曜日」、スーパーチューズデー共和党はトランプ前大統領が指名を確実にした。11月の本選は4年前と同じバイデン大統領との一騎打ちになる

▲投票が火曜日なのは農業社会の名残という。日曜は礼拝で水曜は市が立った。19世紀の半ば、収穫後で11月1日の万聖節と重ならない「11月の第1月曜後の火曜」を大統領選の投票日に決めた。他の選挙もこれに倣った

▲農業を支えた奴隷制をめぐり国家が分裂したのが南北戦争だった。内戦の末、再統合を果たし、世界有数の工業国家に歩んだ。今の米国も深刻だ。誰が勝っても分断が進むのではないか。2人合わせて160歳近い候補者から選ぶ「入れ札」。勝も賢い選び方とは思うまい。