大企業の春の労使交渉(春闘)が来週半ばの集中回答日に向け、山場を迎えている。賃上げが昨年を上回り、中小企業まで波及するかが焦点だ。大手は高い賃上げで産業界をリードしてほしい。
日経平均株価が過去最高を更新しても、多くの働き手はその実感が乏しい。物価の上昇に賃金が追いつかず、実質賃金はマイナスが続いている。円安などを背景に好業績の企業は多い。賃上げで消費を上向かせ、付加価値の高い製品で収益を拡大するサイクルに強く踏み出すべきだ。
主要製造業の労働組合で構成する金属労協の集計では、ベースアップ(ベア)に相当する賃金改善の要求額は平均1万2392円となり、昨年より約6割増えた。抑制傾向が続いてきた労組も積極姿勢に転じている。
大手労組がほぼ同時期に交渉する春闘は本来、産業界の賃金相場を引き上げる効果があった。賃金の停滞期を脱しつつあるなか、春闘の役割が改めて問われる。
中小企業の賃金交渉は大手より遅れて夏ごろまで続く。マイナス金利政策の解除をうかがう日銀は、大手の賃上げの強さを注視している。大手の労使はこうした社会情勢も考慮しつつ、最大限の賃上げを目指してほしい。
自動車ではすでにホンダやマツダなどが労組の要求に満額で回答した。食品や外食でも前倒しで高水準の賃上げを表明する企業が相次ぐ。この流れを太くしたい。
イオンリテールはパート従業員の時給を約7%引き上げることを決めた。全国大手が賃上げを進めれば、地方で追随する企業も増える。非正規の待遇改善でも大手の主導が重要になる。
大手には中小が賃上げしやすい環境整備でも協力を求めたい。労務費などを適正に取引価格へ転嫁できるよう協議に応じるべきだ。
無理な賃上げでは長続きはしない。賃金の原資を着実に生み出すために、各社は生産性の向上へ不断の努力を重ね、事業構造の改革を加速する必要がある。