中国の全人代 「党政分離」に立ち返れ(2024年3月7日『東京新聞』-「社説」)

 中国共産党トップの習近平(しゅうきんぺい)総書記(国家主席)への一層の権力集中を印象づける全国人民代表大会全人代=国会に相当)となった。1993年から続いてきた閉幕後の首相の内外記者会見が今年からなくなることが象徴的だ。
 昨年就任した李強(りきょう)首相は党内序列ナンバー2だが、習氏の地方勤務時代からの部下であり、首相の権限が縮小された可能性がある。
 1年に1度行われる全人代は最高の国家権力機関。閉幕後に恒例として行われてきた会見は、国務院(政府)を率いる首相が国内外に政見を発信する機会だった。それを取りやめるのは、たとえ中国憲法に「党が国家を指導する」と規定されているとはいっても、行きすぎた党主導ではないか。
 こうした傾向は、かつてのリーダー、鄧小平(とうしょうへい)が提唱して実践した「党政分離」に逆行するものといえる。党と政府の職責を分離し、行政部門は国務院に委ね、党は政治に徹する仕組みである。大きな被害をもたらした毛沢東(もうたくとう)による文化大革命(1966~76年)の背景に、党と政府が一体化して毛に権力が集中したことがあるとの反省に立ち、文革後に鄧が進めた政治改革の柱の一つだったが、形骸化がうかがわれる。
 全人代でも、李首相は政府活動報告の中で「この1年の成果の根本は、習近平総書記のかじ取りにある」と賛美一辺倒だった。習氏が党主導を強め、政府のトップたる李首相が党に擦り寄って党と政府の一体化がさらに進んだ感のある今回の全人代は、毛時代のような独裁体制に回帰する重大な転機ともなりかねない。
 全人代では、約1兆6700億元(約34兆8千億円)の国防予算も発表された。日本の2024年度防衛予算案の4倍を超える規模だ。国防費の伸びは前年比7%超と、今年の経済成長率目標「5%程度」を大きく超える。
 台湾問題に関し、李首相は政府活動報告で「『台湾独立』分離活動と外部の干渉に断固反対する」と強調した。中国は1月の台湾総統選で勝利した民進党政権を「独立派」と見なして警戒し、揺さぶりを続けている。経済不振にあっても、手厚い国防予算を確保して軍拡路線を続ける姿勢には、民進党政権に圧力をかける狙いも透けて見える。威迫的な姿勢で、台湾海峡の緊張をいたずらに高める振る舞いは厳に慎むべきだ。