参院予算委員会 政策論争を深める機会にせよ(2024年3月5日『読売新聞』-「社説」)

 衆院の審議と同じことを繰り返すだけでは、内外の課題への対処が置き去りになりかねない。参院は「良識の府」の名に恥じぬよう、政策論争に力を尽くすべきだ。

 参院予算委員会で、岸田首相と全閣僚が出席し、2024年度予算案の基本的質疑が始まった。

 首相は、日英伊3か国で共同開発する次期戦闘機の輸出について、「第三国への輸出は、日本にとって好ましい安全保障環境を作る上で重要だ」と述べた。

 現行の防衛装備移転3原則やその運用指針は、他国と共同開発した完成品の第三国への輸出を認めておらず、現在、自民、公明両党が見直しを協議している。

 立憲民主党辻元清美氏は、日本は3原則を見直す約束を既に英国にしているのではないか、と 質ただ した。英国防相が昨年、下院で「共同開発を成功させるには日本が3原則を変更する必要がある」と述べたことを根拠に挙げた。

 首相は「英国側の期待を発言したものだ」と述べ、事前の約束について否定した。

 英伊両国は積極的に第三国に輸出する方針だ。日本だけがそれを禁じていたら、単に技術を提供しただけに終わってしまう。国際社会でも、日本は制約の多い国だとみられ、様々な安全保障協力に支障をきたしかねない。

 首相はこの機会に、第三国への輸出の必要性を明確に説明し、国民の理解を得られるよう努力する必要がある。

 少子化対策の議論も深めていかねばならない。

 首相は、少子化対策のため支援金を医療保険に上乗せして徴収しても「歳出改革や所得の向上で、国民1人あたりの平均で負担が増えることはない」と強調した。

 だが、歳出改革を行う場合、医療や介護など社会保障サービスが低下する可能性がある。また、大企業はともかく、中小企業でどの程度賃上げが行われ、所得が向上するかは見通せない。

 支援金の負担は確実なのに対し、所得の向上は仮定の話だ。これをあたかも同じ比重のように説明する首相の姿勢は、正直さを欠く印象を与えかねない。

 政府は、支援金の負担は平均で1人あたり「月500円弱」と説明しているが、実際は加入する保険によって、月1000円超となる人もいるという。

 首相は関連法案の審議前に詳細な負担額を示すとした。少子化対策の重要性を説き、丁寧に負担をお願いしていくことが大切だ。