収入や資産を偽って不動産融資(アパートローン)3億8000万円をだまし取ったとして、警視庁捜査2課は5日、詐欺などの疑いで、三菱UFJ信託銀行(東京都千代田区)社員松田大樹容疑者(47)=品川区=と不動産コンサルタント会社「UP-Fコンサル」(同)社長の藤本優容疑者(31)=港区=ら男計4人を逮捕した。
◆不動産コンサル会社が「融資の申請役」を勧誘か
他に逮捕されたのは、UP-F社の社員と元社員の計2人。捜査2課は、同社が融資申請役として松田容疑者を誘い込んだとみている。2019年~22年に、同様の手口で複数の銀行から十数件、計32億円の融資を受けた疑いがあるという。捜査2課は4人の認否を明らかにしていない。
捜査2課によると、松田容疑者はアパートを約3億3000万円で購入し、家賃収入を得ていた。差額の約5000万円はUP-F社の取り分だった。松田容疑者名義の源泉徴収票や金融資産残高の書類を偽造し、対面審査では本物に酷似させたニセの銀行サイトで預金残高を見せて信用させた。UP-F社は不動産投資に関心のある顧客十数人を、融資申請役として勧誘。横浜銀行など複数行から、繰り返し不正融資を受けていたとみられる。
三菱UFJ信託銀行は「当社行員が逮捕されたことを重く受け止め、警察の捜査に全面的に協力していく」とコメントした。
◆ニセサイトの預金残高を被害銀行に提示
不正融資を防ぐはずの銀行の厳しい審査を、どうやってくぐり抜けたのか。捜査2課によると、松田容疑者は対面審査で横浜銀行の行員に資産状況を説明する際、実在する銀行のウェブサイトに酷似したニセサイトを見せ、その場でログインして架空の預金残高を見せていた。
サイトは、指南役の藤本容疑者が経営するUP-F社の社員らが作成したといい「審査のプロが見ても見破るのが難しい完成度」(捜査幹部)。対面審査を通るための「小道具」として、ニセサイトを複数用意。申請役の預金先の銀行に合わせて使い分け、複数銀行から融資を引き出したとみられている。
投資用不動産向けの融資を巡っては、2018年にスルガ銀行(静岡県沼津市)行員や不動産業者らによる書類偽造などの不正が発覚し、各金融機関が審査を厳格化させた。ある地方銀行の行員は「書類審査では原本を厳しくチェックし、対面審査も徹底している」というが「犯行手口が巧妙化している。常に危機感を持って対応しないといけない」と明かす。
捜査幹部は今回の事件を「組織的、計画的、常習的で悪質。融資システムの根幹を揺るがすのではないか」と語った。(佐藤航)