戦闘で負傷した自衛官への輸血用に、防衛省は10年間冷凍保存できる凍結赤血球製剤の製造・備蓄の準備を着々と進めている。2022年に閣議決定された安全保障関連3文書の防衛力整備計画に沿う動きで、南西諸島の態勢強化の一環でもある。不戦を願う思いとは裏腹に、実際の戦場を想定し「戦争できる国」への取り組みが加速している。(奥野斐)
◆戦闘が始まれば「前線に行き渡らない」懸念
こうした背景から、22年12月改定の防衛力整備計画は「自衛隊において血液製剤を自律的に確保・備蓄する態勢の構築について検討する」と明記。防衛省は23年度予算に約9000万円を計上し、採血や成分の分離など凍結赤血球製剤の製造に使う機器計11点が昨年12月、自衛隊中央病院(東京都世田谷区)に納入された。
防衛省の説明では製造に向け、既に中央病院の薬剤師らを対象に日赤による研修を開始。24年度は機器を使って解凍方法などを学ぶ。並行して厚生労働省から許可を得る手続きを進め、27年度までに凍結赤血球製剤の製造を目指す。具体的な備蓄量などは検討中という。
防衛省は南西諸島などで戦傷者が出た場合に備え「凍結赤血球製剤は冷凍庫さえあれば島しょ部でも備蓄できる」と説明する。
◆別の血液型の人に輸血できる「O型」も検討
さらに2月21日に出された有識者検討会の提言では、凍結赤血球製剤の製造に加え「低力価O型全血」の導入も必要と指摘された。低力価O型全血は副反応が少なく、異なる血液型の人にも輸血できる。冷蔵なので保存期間は21日間に限られるが、解凍作業は不要だ。
現場向きだとして既に米軍などが採用しており、提言を受けた防衛省も「戦傷医療に最も有用」と前のめりで、実現を目指す意向だ。ただ、国内で製造されておらず、提言では「薬事承認に向けた安全管理等の体制整備も必要」などと課題を挙げている。
一方、凍結赤血球製剤を防衛省が自前で製造するまでは日赤から調達する方針で、24年度予算案には輸血用血液製剤の確保・備蓄に3000万円を計上した。防衛省は、日赤からの購入で一般向け供給が滞る恐れについて「日赤の必要量に影響が出ない範囲でご協力をお願いしたい」とした。
輸血用の血液 厚生労働省の指針では、副作用や合併症のリスクを下げるため、赤血球や血小板などの成分ごとに、患者の血液型に合わせた血液製剤を投与する「成分輸血」を求め、採血されたままの「全血」の輸血を避けることとしている。防衛省が活用を目指す「低力価O型全血」は、赤血球や血小板などを一度に投与できるが、国内での薬事承認が必要となる。また凍結赤血球製剤は1月18日に日赤が薬事承認を得たばかりで、3月に供給開始される。
【関連記事】注射が怖い? コロナの影響? 献血する10代、20代が減っている理由 東京都内では3割減
【関連記事】エホバの証人の「宗教虐待」実態を調査 2世信者らの9割以上が「親から受けた」と明かしたことは
【関連記事】エホバの証人の「宗教虐待」実態を調査 2世信者らの9割以上が「親から受けた」と明かしたことは