倒壊家屋の「公費解体」進まず、被災住民「本当に先が長い」…完了は来年10月の見通し

 能登半島地震で家屋被害が深刻な石川県輪島市、 珠洲すず 市などの6市町で、倒壊家屋の「公費解体ゼロ」が続く。がれきが消えない街では、自宅の建て直しなど生活再建のステップにも移れない。被災者からは「時間が止まったままだ」とため息が漏れる。(金沢ひなた、赤沢由梨佳) 

がれきの街で

 「がれきが目に見えてなくならなければ、復旧、復興どころではないだろう」。馳浩知事は地震発生から2か月となった1日の記者会見で、被災者の気持ちをそう推し量った。

がれきがはみ出したままの道路(2月25日、石川県珠洲市正院町で)=尾賀聡撮影
がれきがはみ出したままの道路(2月25日、石川県珠洲市正院町で)=尾賀聡撮影

 輪島市河井町の男性(80)は1日、1階が完全につぶれた自宅を前に涙ぐんだ。45年暮らした我が家は、盆や正月になれば自立した3人の息子が戻ってくる大切な場所だった。「小さな家でいいから早く再建したい」と願うが、輪島市は被害認定調査を終えたエリアから 罹災りさい 証明書を交付しており、男性宅はまだ対象外だ。

 傾いた屋根が隣家に接触しそうで、余震のたびに気が気でない。2日に1度は避難先の金沢市から通っている。証明書が手に入れば、すぐに公費解体を申し込むつもりだという。

 6市町のうち輪島、珠洲、志賀の3市町は公費解体の申請受け付けが始まっていない。穴水町は2月28日に開始したが、着工は「4月中旬以降」としている。「半壊」の罹災証明書を受け取り、2日に申請をした穴水町川島の男性(70)は「解体の時期が決まらず、本当に先が長い」と疲れ切った表情で語る。

確認作業が膨大

 公費解体を進めるうえで、自治体職員のノウハウ不足も悩みの種だ。穴水町では、2016年の熊本地震を経験した熊本市の応援職員から必要書類や手続きなどの助言を受け、準備を進めている。

 災害対応の経験が豊富な自治体職員は環境省の「災害廃棄物処理支援員制度」(人材バンク)に登録されているが、公費解体の分野では全国で53人しかいない。この2か月で石川県内の市町に派遣されたのは延べ29人。環境省の担当者は「人材不足は否めず、リモートでもいいので現地を支援する態勢を整えたい」と話す。

 家屋の解体には所有者の同意・立ち会いが不可欠だ。だが、申請の受け付けを開始した市町では、建物の所有権が何代も移転されていなかったり、一つの建物に複数の所有者がいたりして、確認作業が膨大になっているという。

作業員は確保

 県によると、公費解体は16市町で予定され、対象は推計2万2000棟。解体業者でつくる「県構造物解体協会」(金沢市)は県の依頼を受け、新潟、富山、福井と合わせ4県で2500人規模の作業員を確保しており、「明日にでも工事を始められる状態だ」と説明する。

 一方で、公費解体は屋内に残る家財などを手作業で分別する必要があり、協会は「1棟あたり10日は必要」とする。市町からの要請が集中した場合、作業員不足が懸念される。

 熊本地震では約3万5000棟を公費解体するのに2年8か月かかった。石川県は完了見通しを来年10月としており、長期戦になるのは確実だ。

 がれきの処理も問題になる。県は年間のごみ排出量の約7年分に相当する244万トンの災害廃棄物が発生するとしており、2月末時点で県内11市町の21か所を仮置き場として確保した。

 ただ、最終的な処理施設は決まっておらず、環境省は「他県に広域処理を依頼するなどサポートしていく」としている。