壊さないと立て直せないのに 「一部損壊」だと解体費の補助なく 能登半島地震2ヵ月 遠い日常(2024年3月1日『東京新聞』)

 能登半島地震の発生から1日で2カ月となった。被災地では自宅が倒壊するなどした人たちが今も多く避難所に身を寄せ、水も自由に使えない日々が続いている。行政による家屋の緊急公費解体が始まりつつあるが、多くは手つかずのまま。完成した仮設住宅もごく一部で、日常が戻る日はまだ見えていない。

◆<輪島>家屋倒壊「移住するしか」

解体を前に、大きく傾いた家屋から物を運び出す作業員=2月29日、石川県輪島市河井町で

解体を前に、大きく傾いた家屋から物を運び出す作業員=2月29日、石川県輪島市河井町で

 「一度壊さないと、建て直せないだろう」
 石川県輪島市の朝市通りで靴や作業服を販売していた多田見栄一郎さん(52)はため息をついた。市が認定した建物の被害は一部破損。全壊や半壊と違い、現状は解体費の補助は出ない。
 焼け野原となった朝市はほぼそのままで、人の通りはほとんどない。これまで判明した市の住宅被害は1万3千棟近く。このうち約26%にあたる3384棟が全壊と認定された。多田見さんは市に再判定を求めるつもりだが、「これだけの家がつぶれていたら行政も手が回らない」とこぼす。
 食品小売店を営んでいた山王時夫さん(75)は自宅と店舗が倒壊。道路にがれきが広がったため緊急公費解体の対象となり、解体作業が続いている。
 市の調査では2棟とも全壊認定されたが、保険会社には「一部損壊」とされ保険金は満額下りない。「再建には5千万円近くかかる。商売をやっていけないし、移住先を探すしかない」と肩を落とした。(平田志苑、鍵谷朱里)

◆<珠洲>ほぼ全域断水続く

断水が続き、給水所で水をくむ住民ら=石川県珠洲市の宝立小中で

断水が続き、給水所で水をくむ住民ら=石川県珠洲市の宝立小中で

 石川県珠洲市では今もほぼ全域で断水が続いている。給水車の支援もほとんど届かず、井戸水を運んでしのいでいる地区もある。
 「何回もお願いして今朝、1カ月以上ぶりに自衛隊が来てくれた」。避難所の責任者で、市議の川端孝さん(60)は29日、満タンになった500リットルのポリタンクを見つめた。
 1月中に自衛隊静岡市が1回ずつ、給水車で来て以降、支援が途絶えた。市からは「人手が足りない」と説明を受けたという。
 近隣には現在、約200人が暮らす。ペットボトルの飲用水は避難所にあっても洗濯やトイレで使う生活用水がない。川端さんらは軽トラックにポリタンクを積み、毎日のように悪路の山道を約4・5キロ運転し、井戸水をくんで避難所に運んできた。
 この日、計2・5トンの水を運んできた自衛隊員は、2日後にまた届けると確約してくれたという。川端さんは「これが続いてくれれば」と祈るように話した。(多園尚樹)

◆<穴水>高齢者や障害者 施設移れず

さわやか交流館プルート内に設けられた福祉避難スペース=石川県穴水町大町で

さわやか交流館プルート内に設けられた福祉避難スペース=石川県穴水町大町で

 石川県穴水町では29日現在、町内22カ所の1次避難所に577人が避難。中心部にある町の指定避難所「さわやか交流館プルート」には約80人が身を寄せる。
 電気と水道の復旧や2次避難所への移動が進み、避難者は1カ月前と比べ、約40人減った。一方、中島秀浩館長は「福祉避難スペースの避難者の数は1カ月前とほとんど変わっていない」と明かす。
 同館は、高齢者や障害者ら配慮が必要な人を対象とした福祉避難所には指定されていないが、ケアが必要な高齢者ら専用の部屋を設けている。現在は、車いす利用者など12人がこの部屋で生活している。
 自宅が全壊した車いす利用者の中堂隆夫さん(80)は「食事を作ってもらえるし、周りに人がいて安心できる」と妻と身を寄せる。「施設に移ろうにも、どこも職員不足で無理だろう」と話した。(小林大晃)