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92歳とは思えない若々しさで健康講習会の講師を務める佐藤光男さん(右)
年を重ねても病気をせず、元気に過ごしたい―。多くの人の願いだが、札幌市西区の佐藤光男さん(92)は体力トレーニングを毎日続け、若々しさを保ち続けている。身のこなしは実に軽やかで、引き締まった体が実にうらやましい。一体どんな生活をしているのだろうか。(くらし報道部デジタル委員 升田一憲)
札幌市西区の地下鉄東西線「宮の沢」駅に直結する札幌市生涯学習総合センター「ちえりあ」。ここでは歌やダンス、語学など100を超える多彩な講座、さまざまなサークル活動が行われている。体幹トレーニングや体操など日頃の運動不足を解消する講座も人気だ。独自の体操方法を紹介する佐藤さんは、トレーニングを行う講師陣で最高齢だ。
毎月第3水曜日の午前10時から始まる佐藤さんのサークル講座「生涯元気クラブ」をのぞいた。ちょうど高齢の男女8人が、下半身をひねったり、前かがみになったりと準備体操を入念に行っていた。いずれも器具などを使わずにできる体操ばかりだ。
佐藤さんが紹介している体操は2畳ほどのスペースがあれば、どこでもできる。銀行員だった約50年前から、本などを参考に独自に編み出したものだ。まず準備運動に5分、筋力トレーニングが20分、最後に準備運動をアレンジした整理運動に5分をかける。佐藤さんは「ほぼあらゆる筋肉と腱(けん)をストレッチすることができます」と話す。
準備運動は全部で12種類。以下、簡単に紹介しよう。
①座りこみ 足裏を合わせて座り、足を手前に引き付けて前屈し、頭を足先に近づける
①座りこみ 足裏を合わせて座り、足を手前に引き付けて前屈し、頭を足先に近づける
②片足だき 両脚を伸ばして座り、片足を曲げて両手で左足を抱きかかえる。反対も
③寝そべり背伸び あおむけに寝て、両手、両脚を伸ばして背伸びをする
④片足かかえ 右脚を曲げて両手で胸に付くように抱える。反対も
⑤足伸ばしおじぎ 両脚を伸ばして腰を下ろし、膝を軽く曲げて腰から前屈。両ひじを足先の方へ
⑥頭ひねり 両脚を伸ばして座り、右足を左ひざの左側に移し、左ひじで右ひざを押し付け体をねじる。反対も
⑦前かがみ 脚を肩幅程度に開き、両手を下に下げながらひざを曲げずに前屈
⑧空気いす 両脚を肩幅程度に開いて立ち、ひざをゆっくり曲げる
⑨背骨伸ばし 両脚を肩幅程度に開いて立ち、両手を後ろで組み、ゆっくりと胸を張る
⑩脇腹伸ばし 両腕を高く上げ、右手で左の手首を握り、体を横に曲げる。反対も
⑪腕筋伸ばし 両腕を上に上げ、頭の後ろで左ひじを右手でつかみ、上体後部を引き上げる
⑫背伸び 両腕を前から上に上げ、手の平を合わせ、両手を上で伸ばす
筋力トレーニングは腕立て伏せ10回、膝の屈伸10回。背筋10回。ボートこぎ20回、腹筋10回と計5種類。これを1セットとして順番を変えながら3回繰り返す。
ハードそうに見えるが、「最初はできる範囲でもちろん良く、無理は禁物です。徐々に慣れれば回数を増やすことができます。自分の体と相談しながら、やってください」と佐藤さんは話す。
全然できなかった受講生も少しずつ続け、できるようになるという。「血液の循環が良くなり、心肺機能を高める効果があります」と力説する。
佐藤さんの体操について、高齢者向けの運動指導を長年続けている北翔大学生涯スポーツ学部の特任教授、川西正志さん(71)は「これだけの運動プログラムを毎日実施されていることはすばらしい、の一言です」と驚く。準備運動、筋力トレーニング、整理運動と三つのバリエーションについて、「考えながら構成され、佐藤さんの経験に加え、飽きのない工夫が施されています。1回当たりのプログラム構成も妥当ですね」と話す。
一方、筋力トレーニングとしてはかなりの運動負荷があるため、「高齢者の体力づくりのためなら、個々の体力や興味、関心に基づいて行った方が効果的です。トレーニングの一部をできるものから始めたり、時間もゆっくり長めにしたりすれば、かなりの方が参考にしてもいいでしょう。家でこうした運動を続け、雪がなくなったら外に出て、30分以上のウオーキングもすると良いと思います」と話している。
■肩こりや腰痛に悩まされた銀行員時代
佐藤さんが体操を始めるきっかけは半世紀ほど前にさかのぼる。
勤めていた旧北海道拓殖銀行(現北洋銀行)では、主に外回りの仕事が長かった。「40代の頃はストレスも多く、アレルギー鼻炎にも悩まされました。体重は今より10キロ以上も重く、実につらい日々を過ごしました」と振り返る。意外にもそれまでは健康や体力づくりに全く関心がなく、肩こりや腰痛にも悩まされ続けたという。
医師に診てもらうと、血行をよくすることが大切だと力説された。佐藤さんは「運動をすれば症状も改善するのでは」と思い、さまざまな本を読み、各地で行われる体操教室などにも積極的に参加した。終了後には講師から助言を受けた。3カ月ほど水泳や体操などの運動を試しに続けたところ、鼻炎の症状も改善に向かったという。
「運動を取り入れた生活が健康に良いと実感しました。その後は一層さまざまなトレーニングを研究、実践するようになりました」。54歳で銀行を退職後、不動産会社に再就職した後もトレーニングを続けてきたという。
佐藤さんの一日は早い。午前5時に起床。自室で冒頭の体操、トレーニングを30分ほどみっちり行った後、自宅周辺を散歩する。朝食は8時ごろで、和食が中心だ。
「運動ももちろん大切ですが、食事もそれ以上に大切です。私は八つの原則を掲げました。あくまでも参考ですが」と話す。
佐藤さんの食事の8原則
①週4回、イワシを食べる
②週1回、サケを食べる
③週1回、エビかカニ、貝類を食べる
④週1回、何でもいいので魚を食べる
⑤週1回、レバーを食べる
⑥週1、2回、カブを食べる
⑦週1、2回、豆類を食べる
⑧毎日、少なくとも1回は野菜を食べる
①週4回、イワシを食べる
②週1回、サケを食べる
③週1回、エビかカニ、貝類を食べる
④週1回、何でもいいので魚を食べる
⑤週1回、レバーを食べる
⑥週1、2回、カブを食べる
⑦週1、2回、豆類を食べる
⑧毎日、少なくとも1回は野菜を食べる
■運動だけでなく、笑いも大事
1時間半の講座の中で実にユニークだなと思ったのが、笑いや歌なども取り入れていることだ。
まゆ毛とひげのついた市販のメガネおもちゃを付け、受講生と一緒に笑い方も伝授する。
「うれしいなあ、面白いなあ、おかしいなあ。さあ、みんなで笑いましょう」と唱和し、高らかに笑う。
最初はみな恥ずかしがっていたが、これも慣れだという。「日常に笑いは欠かせず、ストレスの発散にもなります。ちょっとおかしな格好をして少しでも笑ってくれたらうれしいという思いでこんな格好もしています」
受講生も元気いっぱいな佐藤さんに大いに刺激を受けているようだ。
昨年から講座に通う札幌市清田区の土門昭雄さん(68)は現役時代は病院の事務職で、体調の優れない高齢者を多く見てきたこともあって、定年後は特に体づくりの大切を実感していたという。「佐藤さんは90歳を過ぎても実に意欲的で元気ですね。長い間継続して続けてきたからこそで、私も見習いたい」と話す。
■「高齢者を1人でも元気にしたい」
佐藤さんは新たな目標も掲げている。「コロナ禍ではなかなか難しかったのですが、希望者がいれば自宅で個人レッスンをしてもいいと思っています。1人でも私が続けた体操、トレーニングで伝授し、高齢者を元気にしたいんです」ときっぱりした口調だった。講座で使ったラジカセをショルダーバッグに詰め込むと、佐藤さんは自転車に乗って帰宅した。