「まだやっているの?」葛藤もある中語り続ける 震災で当時6歳の娘亡くした母 覚悟胸に〈宮城〉(2024年2月29日『仙台放送』)

東日本大震災からまもなく13年となります。当時6歳の娘を亡くした母親は、葛藤もある中で語り部の活動を続けています。つらい記憶と向き合い、伝え続ける理由。そこには母親としての強い覚悟がありました。

佐藤美香さん:
「生きていたら、今年20歳になるので、振り袖だったりとか、成人式の前撮りだとか、今年いろいろやっていたんだろうなとか」

石巻市に住む佐藤美香さんです。東日本大震災で長女・愛梨さんを亡くしました。

当時6歳、楽しみにしていた幼稚園の卒園式を迎えることはできませんでした。

佐藤美香さん:
「私は『式』っていうのを重ねてあげさせたかった。うちの子は入園式で、次はお葬式だった。卒園式すらもこの子は出られなかった」

大きな地震の後、高台にあった幼稚園から園のバスに乗せられた愛梨さん。園児を送り届けるためバスは海側へと走り、津波とその後に起きた火災に巻き込まれました。

大人が守らなければならなかった命。佐藤さんはこの13年、愛梨さんが遺した教訓を伝えようと、さまざまな活動に取り組んできました。

去年11月には、地域の防災に関わる人材を育成する研修に協力するなど、防災の輪を広げてきました。

佐藤美香さん:
「『ただいま!』のこの言葉をいまだに聞けていません」

「二度と同じ思いをしてほしくない」。佐藤さんは普段から防災について考えておく大切さを訴え続けています。

佐藤美香さん:
「どうか未来ある子供たちの命を守るために、目の前にいる子供たちを大人が守ってあげられるよう、常日頃から考えていてほしいと思います」

一方で、震災を語り続けることは、簡単なことではなかったといいます。

佐藤美香さん:
「歩いて語り部をやっている時だったり、ふと案内している時に突然言葉の刃が…襲って来る時もあるんですね。そういう時は…やはり苦しいですし、やっていいのかなと思ったりもするんです」

「まだやっているの?」「いつまで言っているの?」と、佐藤さんに時折、投げかけられる心無い言葉。

佐藤美香さん:
「でもやっぱり伝え続けていかないと、また同じようなことが繰り返してほしくないっていう一心から、私はやっているので」

葛藤を抱えながらもこれまで語ることをやめませんでした。

1月、佐藤さんは多賀城市内の保育園を訪れました。

読み聞かせ:
「ゴゴゴゴゴ、大きくて真っ黒な姿をした津波が、ものすごい速さで子供たちのところにやってきました」

当時の様子が子供たちにも分かりやすいよう描かれた紙芝居。佐藤さんの思いに触れた大学生たちが作ってくれたものです。丁寧に読み聞かせた後、佐藤さんは子供たちに語りかけました。

佐藤美香さん:
東日本大震災という言葉は、ひょっとしたら聞いた事あるかな、その時亡くなったお友達が、たくさんいました。なので皆さんはたくさん、たくさん楽しい思いをして、たくさんいっぱいお友達、先生たちとたくさん遊んで元気に暮らしていってもらいたいなと思います」

3月11日の朝、幼稚園に向かう愛梨さんにもかけた言葉…震災で奪われた日常です。

佐藤美香さん:
「愛梨にはあの日ももうすぐ卒園式だから『たくさん遊んでおいでよ』。『友達と遊んで来るんだよ』と言ったのね。卒園式も楽しみにして、入学式も楽しみにしていたのに何にもできなくなっちゃったよね」

震災からまもなく13年。佐藤さんは変わらぬ思いを胸にこれからも語り続けます。

佐藤美香さん:
「すごく悩んだりすることもあったし、それでも必死に走り続けてきた13年間でもあります。娘たちのように苦しい思いをしながら亡くなる子供たちがやっぱり出てほしくない。自分が伝えられる間は頑張って伝えられればなというふうには思っています」

 

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