給食で小1死亡 教訓が生かされていない(2024年3月1日『西日本新聞』-「社説」)

 痛ましさに言葉を失う。多くの子どもが楽しみにしている給食時間に、あってはならない事故が起きた。

 福岡県みやま市の小学1年男児が2月に亡くなった。給食のおかずに入っていたウズラの卵を喉に詰まらせ、窒息したとみられる。

 市教育委員会によると、担任教諭が背中をたたいたりさすったりしたが何も吐かず、他の教諭が心臓マッサージや人工呼吸をした。ドクターヘリで病院に搬送されたものの死亡が確認された。

 安全であるはずの学校で、いつも通りの一日を過ごすことができなかった。男児の苦しさや家族のつらさを想像するとやり切れない。

 学校や市教委のほか、給食の関係者、文部科学省は命が失われた原因と背景を検証しなければならない。

 見過ごせないのは、同じような窒息事故が繰り返されていることだ。

 給食中に窒息死した児童や生徒は2008年から11人に上る。パンやミニトマト、プラムの種などが原因だった。みやま市のような事故も起きていた。15年に大阪市の小学1年女児がウズラの卵を喉に詰まらせ亡くなっている。

 数センチ程度の丸い物を吸い込むと、気道をふさぐことがある。保育所や幼稚園向けに国が策定した指針は、ウズラの卵を「給食での使用を避ける食材」と示す。学校給食の手引でも丸い食材への注意を呼びかけている。

 みやま市教委は、ウズラの卵に注意が必要だと認識せずに使っていたという。他の自治体も似た状況のようだ。

 過去の事故に関する情報が十分に共有されず、教訓が生かされていない現状を関係者は重く受け止めるべきだ。教委などに通知を出し、注意喚起してきた文科省の対応も形式的ではなかったか。

 特に小学校低学年は歯が生え替わる時期で、かみにくい子がいる。食材の基準を見直す検討が必要だろう。食物アレルギーがある子の対応に追われる学校給食の現場に、過度な負担がかからない工夫も求められる。

 給食中の窒息死に限らず、学校では校舎からの転落などさまざまな死亡事故が発生している。日本スポーツ振興センター災害共済給付制度で見舞金などが支払われたのは年50人を超える。

 再発防止には事例の詳細を広く共有することが欠かせない。しかし肝心の文科省が死亡事故の全体像を把握できていない。

 文科省は学校事故の対応指針に沿って、都道府県教委などに死亡事故の報告を求めている。昨年夏の調査で全件報告したのは60%台にとどまった。報告基準が曖昧なことが一因だ。

 文科省は年度内の通知を目指し、対応指針の改定を進めている。教委や私立学校の責務を明確にして調査と報告を徹底する。早急に実効性を高めなくてはならない。