日本版DBS 「子どもの安全」が最優先(2024年2月29日『熊本日日新聞』-「社説」)

 政府は4月から、子どもへの暴力やわいせつ行為で資格を取り消された保育士の情報を管理するデータベース(DB)を導入し、保育所認定こども園児童養護施設に採用時の確認を義務付ける。

 児童生徒への性加害で免許を失った教員については、既に文部科学省がDBの運用を始めており、教育委員会や学校法人が採用する際の照会を義務化している。保育や教育の現場で被害に遭う子どもが後を絶たない中、性犯罪歴のある人物を子どもから遠ざけ、安全を確保する仕組みが段階的に整いつつある。

 大きな柱となりそうなのが、英国の「DBS(前歴開示・前歴者就業制限機構)」を手本とする「日本版DBS」の創設だ。政府が関連法案の今国会提出を目指している。求職者の犯罪歴照会を学校や保育所に義務付けるほか、学習塾など民間事業者にも任意の照会を促して子どもを守る考えだ。

 犯歴歴の照会に対しては、犯罪を犯した人の更生や社会復帰の道を閉ざすことになりかねず、憲法の「職業選択の自由」に抵触するのでは、と懸念する声もある。

 しかし、最優先で考えたいのは子どもの安全だ。再犯率が高く、幼い心に深刻な傷を残す卑劣な行為を防ぐために、加害者の権利に一定の制限をかけるのはやむを得ないのではないか。被害根絶のために速やかに制度を導入してもらいたい。よりよい仕組みにするための不断の見直しも欠かせない。

 保育士DBには、国家資格になった2003年以降に資格を取り消された保育士の氏名や取り消し事由などを記録し、少なくとも40年間保存する。示談などで事件にならなかった事例も、都道府県が性加害を認定した場合は対象とする。犯歴隠しを防ぐため旧姓も記録。子どもの預かりスペースがある商業施設にも、雇用時の照会を義務付ける方向だ。

 ただし、DBを導入する4月時点で既に在籍中の保育士は対象としない。プライバシーへの配慮が理由だが、処分歴を隠して働く可能性は残る。

 日本版DBSに関しては、制度設計について議論した政府の有識者会議から、対象を教員や保育士だけでなく、運転や保守管理、給食といった間接業務を受け持つ職種にまで広げるべきだとの意見も出た。前向きに検討してほしい。

 処分歴や犯歴をどこまでさかのぼって確認するかも論点だ。刑法では懲役刑や禁錮刑は執行を終えて10年たてば「前科」を抹消できるが、政府は子どもの安全を重視し、照会期間を禁錮以上の場合は終了から20年、罰金刑以下は10年とする方向で調整している。ベビーシッターの仲介業者や芸能事務所に対しても確認を促す方針だ。

 とはいえ、処分歴や犯歴を照会することで再犯をある程度抑え込めたとしても、初犯を防ぐことまではできない。防犯カメラを設置する保育現場への補助などもさらに拡充するべきだ。子どもたちが安心して過ごせるよう、できる限りの対策を積み重ねたい。