平成のコメ騒動(2024年2月29日『佐賀新聞』-「有明抄」)

 スーパーに輸入米が並んだ。タイ、中国、カリフォルニア…。なじみのない長粒種のタイ米は散々な評判で、他のコメと混ぜたり、抱き合わせたりして販売された。希少な国産米には消費者が殺到、終戦直後でもないのに「ヤミ米相場高騰」や「コメの万引」がニュースになった

◆1993(平成5)年の冷夏によって、コメは作況指数「74」の記録的な大凶作。政府は緊急輸入を決め、外国産のコメが段階的に入ってきた。佐賀県内で輸入米が店頭に並んだのは翌94年2月末。30年前のドタバタ劇は「平成のコメ騒動」と呼ばれた

 

◆コメ余りから一転、食料自給の大切さに関心が高まったが、次の年には何事もなかったかのように元に戻った。その後も自給率は一向に上がらず、穀類をはじめ、肉や魚、果物など輸入頼みの状況は変わっていない

◆昨日の紙面に、食料危機時の対応方針を定めた法案が国会に提出されたとの記事が載っていた。危機の兆候があれば首相をトップとした対策本部を設置し、農家に生産拡大の要請や増産計画の届け出を指示できるという

◆世界的な異常気象、国際紛争、家畜伝染病…。最近の状況を見ていると、食料危機の発生リスクは拡大しているように感じる。重要な安全保障の問題だが、緊急時の増産を可能にするには農業を守る平時の政策こそ疎おろそかにできない。(知)