子ども・子育て支援金 「負担増」を取り繕うな(2024年4月7日『沖縄タイムス』-「社説」)

 医療保険料がなぜ少子化対策に使われるのか。世代間の分断と対立を深めることにもなりかねず、丁寧な説明が必要だ。

 少子化対策の財源確保のため公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」の創設を巡り、国会で論戦が続いている。

 支援金は岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」の財源の一つ。2028年度までに実施する少子化対策の「加速化プラン」に必要とされる年間3兆6千億円のうち、1兆円の財源を調達するという。

 政府が国民1人当たりの月平均徴収額の試算を公表したのは先月下旬のことだ。

 医療保険別で平均月額の最大は、共済組合の公務員らで28年度に1人950円。大企業の会社員が加入する健康保険組合が850円、中小企業の協会けんぽ700円、国民健康保険600円、後期高齢者医療制度350円と続く。

 こうした支援金徴収に関し岸田首相は、歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内で行うため「国民に実質的な負担は生じない」と繰り返す。

 しかし実態に即した説明とは言えない。

 国民所得に占める社会保険料の負担の割合「社会保障負担率」は増加傾向にある。1989年度は10・2%だったが、2024年度は18・4%になる見通しだ。

 ここから歳出改革すれば、医療や介護サービスの窓口負担が増えたり、サービスが削られたりする可能性がある。新たな支援金は、社会保障制度の「外側」の負担増につながりかねないのである。

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 それにもかかわらず詳細を明かそうとしない政府の姿勢には疑問符が付く。

 所得に応じた個人の負担額を示すよう求める野党に対し、加藤鮎子こども政策担当相は「年収別の拠出額は数年後の賃金水準などによる」として明言を避けた。

 少子化対策の財源を、税ではなく医療保険と合わせて徴収する仕組みもどうか。

 日本の社会保険はサービスを受益する人が負担する「受益者負担」が基本だ。一方、支援金は子育て世代以外にとって負担だけが増えることになる。

 会社員の医療保険料の半分は企業が拠出するが、今回、政府が公表した試算に企業分は含まれていなかった。

 健保組合の赤字解散が相次ぐなど医療保険の運営は厳しさを増している。新たな負担が企業活動に影響する懸念も拭えない。

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 最初の総合的な少子化対策である「エンゼルプラン」がまとめられたのは1994年。この間、さまざまな対策が講じられてきた。

 しかし出生数の減少は止まらず、効果的な対策が急がれている。

 そのためには十分な財源を充てる必要もあるだろう。「実質負担ゼロ」という説明で国民の理解が得られるとは思えない。

 子育て支援の負担をどう分かち合うか。国民的な議論の土台となる提案こそが求められる。