少子化対策法案(子育て支援金)に関する社説・コラム (2024年4月11日)

少子化対策法案 負担と給付、議論深めて(2024年4月11日『東京新聞』-「社説」)

 

 少子化対策関連法案の国会審議が始まった。人口減が続けば社会は確実に活力を失う。与野党は危機感を共有して議論を深め、実効性ある対策につなげてほしい。
 2023年の将来推計人口によると、50年後の総人口は現在の7割に減り、高齢者はおよそ4割を占める。まずは厳しい現実を直視しなければならない。
 法案の柱は対策の財源確保に、公的医療保険料に上乗せする「子ども・子育て支援金」を26年4月に創設することだ。28年度には必要な年3兆6千億円のうち1兆円を支援金で賄うと想定される。
 岸田文雄首相は「支援金制度の構築は、歳出改革による保険料負担の軽減効果の範囲内で行い、歳出改革を中心として財源を確保する」と説明。野党側は歳出改革の見通しが不確実だとして「事実上の子育て増税だ」と指摘する。
 政府は9日、年収別の支援金徴収額の試算を公表した。まずは国民の負担増で少子化対策を講じることの是非や徴収額の妥当性について議論を深めるべきだ。
 政府は3月、支援金徴収額は個人が払う医療保険料の約5%に当たるとの試算も提示している。会社員なら給与明細に記載されている保険料額から徴収額を推計できるが、こうしたことの説明が不足しているのではないか。
 政府は審議に必要なデータを速やかに国会に提示し、繰り返し丁寧に説明することが必要だ。
 法案審議では負担にばかり焦点が当たるが、児童手当や育児休業給付などの現金給付、保育所の利用拡充、教育支援など給付についても多彩な対策が並ぶ。支援金制度で子どもが18歳までに受給できる現金やサービスの総額は1人当たり通算約146万円に上る。
 少子化を克服するには若い世代が希望を持ち、子どもを産み育てやすい社会にすることが必要だ。直接的な給付にとどまらず、雇用政策や男女平等の推進、住宅政策など幅広い視点での対策を検討することも欠かせない。
 日本世論調査会の調査では、少子化対策の費用を全ての世代で広く負担する政府方針に計63%が賛成するが、岸田政権の対策に期待しない人は計73%に上る。
 いくら負担を増やしても、少子化を克服できなければ国民の理解は得られまい。審議では財源確保策はもちろん、対策の実効性についても議論も深めるべきだ。

 

子育て支援金/具体的な説明が不可欠だ(2024年4月11日『神戸新聞』-「社説」)


 子育てを社会全体で支える仕組みを手厚くすることには賛成だ。しかし、政策の効果や財源について正面からの議論を避けていては、国民の理解は得られまい。岸田文雄政権は今こそ情報を開示し、丁寧かつ具体的に説明するべきである。

 少子化対策関連法案の国会審議が本格化した。焦点の一つが「子ども・子育て支援金」だ。政府は2026年度の創設を目指している。

 支援金は、公的医療保険料に上乗せして幅広い年代の国民や企業から集める。児童手当の拡充や、妊産婦への計10万円相当の支給、全ての子育て世帯が利用できる保育サービスの整備などに使う。徴収額は段階的に増やし、3年目となる28年度には計1兆円とするという。


 ところが、岸田首相は国民の負担について「実質的にはゼロ」との説明を繰り返してきた。

 理屈はこうだ。医療や介護などの社会保障の歳出削減に加え、民間企業の賃上げ効果により社会保険の負担が抑えられるため、その範囲内で支援金を徴収しても追加負担は生じない-。

 果たして国民は納得できるだろうか。物価高騰で実質賃金は前年同月比マイナスが続く。そもそも、企業努力である賃上げを「負担ゼロ」の前提条件として持ち出すことに違和感がある。与党からも「分かりにくく、国民の理解が進まない要因だ」との声が上がっている。

 政府は今月9日になって初めて、支援金の年収別徴収額の試算を公表した。会社員の場合、28年度に年収400万円なら給与から月650円が天引きされる。年収1千万円では月1650円になるという。

 これに先立つ3月末には、国民が加入する医療保険別の徴収額が示された。だが、例えば75歳以上の後期高齢者医療制度では1人当たり平均月350円になるなど、平均額の公表にとどまった。情報を小出しにしつつ、徴収額を変遷させる説明に野党は不信感を募らせている。

 さらに、現時点に至っても自営業者が加入する国民健康保険や75歳以上の年収別の徴収額は明らかにされていない。政府が負担増のイメージ回避に躍起になっているとみられても仕方あるまい。早急に制度の実像を提示すべきだ。

 支援金の額に注目が集まりがちだが、与野党には少子化対策について多角的な審議を求めたい。