消防のパワハラ/悪しき風習を断ち切る時だ(2024年3月16日『福島民友新聞』-「社説」)

 職場にパワーハラスメントを指導の一環などとして軽く見たり、許容したりする土壌がないかを検証することが不可欠だ。

 相馬、南相馬、新地、飯舘の4市町村を担う相馬地方広域消防内で長期間にわたりパワーハラスメントがあった。同消防を管轄する相馬地方広域市町村圏組合の第三者委員会が認定した。

 職員4人が日常的に、後輩職員に対して胸ぐらをつかむ、殴るなどの暴行や、「死ねばいいのに」などの不適切な発言を繰り返していた。後輩に指導の見返りを要求し、現金を受け取っていた職員もいたとしている。

 第三者委は昨年12月の調査開始後もハラスメントが続いているとみられるとして、調査終了を待たずに認定した事実を公表する異例の対応を取った。処分は今後行われる見通しで、4人は1月から自宅待機となっている。

 警察への被害届は出されていないものの、こうした暴行や現金の要求は悪ふざけや嫌がらせの範囲を超えている。犯罪行為そのもので、許されるものではない。同消防は第三者委の認定と厳しい姿勢を重く受け止めるべきだ。

 消防職員を巡るハラスメントは全国で相次いでいる。三重県の松阪地区広域消防組合は先月、職場内で20件超のパワハラの申し立てがあったと公表した。県内でも、郡山消防本部で2018年、パワハラがあったとして複数人が懲戒処分を受けたことがあった。

 消防関係者やその周辺の一部には、消防は規律を守った団体行動が必要なことから、行き過ぎた指導をやむを得ないものと捉え、パワハラをした側を擁護するような声がある。自身も若手時代に同様の扱いを受けていたため、自分の言動がパワハラだと自覚していないことが多いとの指摘もある。

 消防は住民の生命と財産を守る過酷な仕事だ。ただ、職務の厳しさは、心ない言動や、指導と称した暴行などを許容する理由にはならない。同僚の尊厳を軽視するような職場風土は、受け継ぐのではなく改めるのが当然だ。

 相馬地方広域消防のようなパワハラは、県内外の状況をみてもどの消防本部で発生しても不思議ではない。相馬のような事例がないかを確認し、被害の確認と未然防止を図ることが大切だ。

 パワハラを根絶できなければ、職員の士気や業務の質の低下にもつながりかねない。職員採用への影響も懸念される。消防は地域になくてはならない存在だ。全ての人が生き生きと活躍し、子どもたちが憧れる職場であってほしい。