出自を知る権利 時代に合った法整備急げ(2024年2月28日『中国新聞』-「社説」)

 生殖補助医療の在り方を考える超党派議員連盟が、第三者精子卵子を使った不妊治療に関する新法のたたき台修正案をまとめた。各党の合意を得て、今国会に法案提出を目指す方針という。

 生まれた子どもが遺伝上の親を知る「出自を知る権利」を重視し、子の要望があれば提供者の同意の有無にかかわらず、身長や血液型など一部の情報を開示する。議連が2022年3月にまとめた、たたき台では、提供者の同意があった場合に限定していた。

 一部とはいえ開示情報の範囲を広げる修正は前進と言えよう。ただ、子どもが自らの出自を知るためには、まだまだ検討が不十分な点もある。

 夫以外の第三者精子で妻が人工授精を行う非配偶者間人工授精(AID)は戦後すぐに始まった。これまで1万人ほどが誕生しているとされるが、第三者が関わる生殖医療は情報を告げないことがあくまで前提になっている。

 医療の進展は目覚ましく、さまざまな形で子どもを授かることが増えてきた。親子関係を確認するDNA型などの解析技術も進み、出自を知りたいという子どもの思いが高まるのもうなずける。

 「自分はどうやって生まれたのか」というルーツをたどりたい思いはあろう。見えない親から引き継いだ遺伝性の病気、さらには予期せぬ近親婚などへの不安もある。生殖補助医療で生まれた子どもに寄り添える対応が要る。

 修正案は、精子卵子の提供者、提供を受けた夫婦、住所、マイナンバーなどの情報を独立した組織で100年間保管するとした。ただ、提供精子などによる人工授精や体外受精が受けられるのは、これまで通り、医学的に子ができない法律上の夫婦に限定した。同性婚や事実上のカップルまでは対象を広げず、代理出産も認めないとしたことには議論の余地も残る。

 子どもの出自を知る権利は1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」にもうたわれる。「児童は可能な限りその父母を知り、その父母によって養育される権利を有する」のはもっともだ。

 海外では開示に踏み切る国が少なくない。体外受精を78年に世界で初めて成功した英国は徐々に拡大し、提供者の身元を特定する情報も開示するように。オーストラリアのビクトリア州では出生証明書に提供の事実を明記し、法施行前の提供者情報の開示にも踏み切っている徹底ぶりだ。

 匿名性をなくせば提供者がいなくなるのでは、という指摘もある。しかし、匿名でなくても協力を申し出てくれる提供者は実際には少なくないという。提供の在り方がどうあるべきか、少なくとも議論を重ねる時期に来ている。

 治療は認定された医療機関に限ることや、精子卵子のあっせんは国の許可を要件とすることはうなずける。提供の対価の授受を禁止し、違反した場合の罰則規定も必要だろう。不妊治療の支援をする行政などの窓口強化も欠かせまい。子どもの知る権利を最優先に、時代に合った法整備を急いでもらいたい。