NHK議事録 経営委への不信が募る(2024年2月26日『東京新聞』-「社説」)

 かんぽ生命保険の不正販売報道を巡り、NHKの経営委員会が当時の会長を厳重注意した議事の録音データを開示するよう東京地裁が命じた。放送法は経営委による個別番組への介入を禁じる。NHK側は速やかにデータを開示し、全貌を明らかにすべきだ。
 NHKは2018年に放送した番組で、かんぽ生命が高齢者に不適切な販売をしていた実態を報道し、交流サイト(SNS)でも情報提供を求める動画を流した。
 これに対し、日本郵政グループはNHKに「犯罪的営業を組織ぐるみでしている印象を与える」と抗議。NHK経営委も当時の上田良一会長を呼び出して厳重注意し、当時、委員長代行だった森下俊三委員長は経営委で「取材は極めて稚拙」などと発言していた。
 しかし、厳重注意は経営委員の番組介入を禁じる放送法違反の疑いが持たれた。同法は経営委に議事録公開も義務付けているが、経営委は当初、公表せず、第三者機関の答申を経て開示された議事録は「整理、精査していない『粗起こし』」に過ぎなかった。
 そのため、議事録や録音データの開示を求める訴訟が元NHK職員らによって起こされた。
 そもそも正式な議事録の作成を終えていない段階で録音データを消去するはずはない。東京地裁は削除されたと認められる証拠はなく「NHK役職員が現時点でも保有している」と判断した。
 さらに判決は、森下氏が19年に国会内でのヒアリングに対応する過程で、データの存在を認識したと認定。それでも開示の措置を取らず「原告らの文書開示請求権を侵害した」と指摘し、開示義務を怠ったことを不法行為ととらえて損害賠償も認めた。
 原告側は「議事録隠しの動機は放送法が禁じる違法な番組への介入を隠蔽(いんぺい)することにあった」とも見ている。録音データの開示を命じる判決は「画期的」だ。
 日本郵政グループからの圧力に経営委が同調したことだけでも、公共放送の独立性を疑うには十分であり、その時点で森下氏の進退も問われるべきだった。違法な番組介入をし、それを隠し続けようとした経営委の一連の振る舞いには不信感が募るばかりだ。
 NHKは司法が命じた録音データの開示に速やかに応じ、くすぶり続ける番組介入の有無を巡る問題の解明が進むことを望みたい。