森下NHK経営委員長(2024年2月27日)

森下NHK経営委員長 反省しないまま去るのか(2024年2月27日『毎日新聞』-「社説」)

 

衆院総務委員会で、2018年に当時の会長を厳重注意した問題などについて答弁する森下俊NHK経営委員長=国会内で2021年3月22日、竹内幹撮影


 ジャーナリズムの使命を理解せず、NHKへの国民、視聴者の信頼を損なった責任は重い。経営委員長の森下俊三氏が任期満了に伴い、今月末で退任する。

 2018年にかんぽ生命保険の不正販売を報じた番組への介入が疑われる発言をし、資質が問題視されていた。

 毎日新聞の報道で発覚した。番組に対する日本郵政グループからの抗議に同調し、委員長代行だった森下氏が主導して、当時の上田良一会長を厳重注意した。

 放送法は、経営委員長に議事録の作成と公表を義務付けている。だが森下氏は当初、厳重注意を巡る発言を記した議事録はないなどと強弁し、その後も開示に後ろ向きな姿勢を続けてきた。

 経営委が個別の番組に介入することは放送法で禁じられている。開示に応じなかったのは、法律違反の恐れのある介入を隠すためだったと思われても仕方がない。

 市民らの提訴を受けて、東京地裁は経営委会合の録音データの開示を求める判決を下した。開示を怠ったとしてNHKと森下氏に損害賠償を命じた。

 両者は控訴する構えだが、録音データを速やかに開示すべきだ。

 一連の経緯で浮き彫りになったのは、NHKと経営委に対する不信感の根深さだ。

 経営委はNHKの最高意思決定機関だ。執行部を監督し、会長の任免権も持つ。委員は国会の同意を経て、首相に任命される。

 放送法によれば、経営委員は「公共の福祉に関し公正な判断をする」ことができる人物であるはずだ。

 しかし、森下氏は番組への介入が疑われる中、互選で委員長に就いた。

 経営委員の任命を巡っては、政府の意向が取り沙汰されてきたこともあった。森下氏の委員長としての資質が経営委で問題視されることはなかった。チェック機能を果たせなかった国会も責任を免れない。

 経営委が番組に介入するような事態を繰り返してはならない。公共放送としての公正中立をどう担保するか。外部の目を入れた徹底的な検証が必要だ。さもなければ国民、視聴者の信頼を回復することはできない。

 

NHK経営委 介入の責任 明確にせよ(2024年2月27日『信濃毎日新聞』-「社説」

 NHKの経営委員会が報道番組の制作に介入した責任は重大だ。時間が過ぎてほとぼりが冷めるのを待つかのように、うやむやに済ますわけにいかない。

 かんぽ生命保険の不正販売を報じた番組をめぐって、2018年に経営委が会長を厳重注意した問題である。5年半近くを経た現在まで、NHKはその際の議事録を公表していない。

 放送法は、経営委の議事録を遅滞なく公表することを義務づけている。これを踏まえ、元職員ら市民100人余が全面開示を求めた裁判で、東京地裁が録音データの開示を命じる判決を出した。

 NHKは経営委の会合から3年近くが過ぎた21年に、発言の「粗起こし」を開示した。しかし、本来の手続きを踏んで公表された議事録ではなく、記載された内容の真偽も確かめようがない。

 地裁は、正式な議事録は存在しないと認定し、文書の開示請求は棄却している。一方、そうであるならば、録音データを保存する必要性がなくなったとは認められないとして、既に消去したとするNHK側の主張を退けた。

 無い物は開示できないが、有る物まで無いことにしてしらばくれるな、ということだ。さらに判決は、経営委の森下俊三委員長が開示の措置を取らなかった責任を認め、損害賠償を命じた。

 番組をめぐっては、日本郵政グループから抗議を受けた経営委が会長を厳重注意し、続編の放送が大幅に延期された。抗議を主導した日本郵政の幹部は、かつて総務省事務次官を務め、政権とも近い人物だった。

 経営委はその意を体するように動く。当時、委員長代行の立場にあった森下氏は、取材が極めて稚拙だなどと番組を批判する発言を重ね、議論を率先した。

 経営委はNHKの最高意思決定機関として、会長をはじめ執行部を監督する権限を持つ。ただし、個別の番組への干渉を放送法は明確に禁じている。放送による言論・表現の自由を確保するため、制作現場の自律性は何よりも重んじられなければならない。

 公共放送の根幹を揺るがす問題であるにもかかわらず、NHKは議事録を公表せずに頬かむりしてきた。自ら検証しようとする姿勢はおよそ見えないままだ。

 森下委員長は今月末で経営委員の任期を終えて退任するという。だからといって区切りがつくわけではない。NHKは視聴者に信頼される公共放送たり得ているか。姿勢が厳しく問われる。