「鍾馗(しょうき)様作り ことしは断念」(2024年2月26日『新潟日報』-「日報抄」)

 「鍾馗(しょうき)様作り ことしは断念」。阿賀町で伝統行事を続けられない集落が相次いでいることを本紙で知った。そのご神体は男性のシンボルが誇張され、どこかユーモラスだ

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▼阿賀路の集落は早春、競うように稲わらで大男を作り、豊作や子宝、無病息災を願う。江戸時代から続く県の無形文化財である。この守り神を作れない背景には、加速する過疎化がある。「残念だが、こればっかりは」。町の教育長の嘆きが切ない

▼東蒲原のこの町は2020年に人口が1万人を割った。50年には人口が6割以上減るとの試算がある。65歳以上の高齢化率はすでに50%を超し、県内30市町村で最も厳しい状況だ

▼県人口は50年には3割減るという。各種のサービスが維持できない恐れがある。一方で考える。人口減は住民の幸せを直ちに損なうのか。幸福の尺度は多様だ。最貧国に分類される小国ブータンが、心の充足感を独自の基準とし「幸せの国」と称されているのは有名だ

▼周りと調和して、楽しく人並みに暮らせたら。日本人はそんな日常に幸せを見いだす文化的傾向が強いという研究もある(内田由紀子「これからの幸福について」)

▼国も県も新年度予算では少子化対策に力を入れている。人の数を増やすのが難しいなら、質の工夫に知恵を絞りたい。集落が縮小しても、衰弱しないような工夫はないか。住民が心のよりどころにする伝統行事を支える手だても探りたい。鍾馗様が春の訪れを告げるふるさとを、これからも誇れますように。