「電子逮捕状」導入へ、IT化で2026年度にも 法務省案
電子逮捕状の導入など捜査機関側の効率化が図られる。一方で容疑者と弁護士のオンライン接見などは実現せず、不公平な改革との懸念が残る。
社会のデジタル化に対応した刑事手続きの見直しは必要だが、国民の権利保護への配慮が欠かせない。法案提出までなお議論を重ねてもらいたい。
法相の諮問機関である法制審議会が、電子逮捕状の導入など刑事手続きのデジタル化の要綱を小泉龍司法相に答申した。
法務省は2026年度にも一部の運用開始を目指す。だがデジタル化を盛り込んだ刑事訴訟法の改正案などが今国会中に審議されるかは見通せず、スタート時期がずれ込む可能性もある。
デジタル化は紙の使用や対面でのやりとりが原則の刑事手続きを大きく変える内容だ。逮捕や捜索に必要な令状を電子化し、裁判所に出向かなくてもオンラインで迅速に発付できるようになる。
捜査関係者は、ストーカー事件など一刻を争う際に裁判所と往復する手間が省けると期待する。
令状発付までの時間が短縮されるため「グレーな任意捜査を減らせる」と予測する専門家もいる。
病気や障害で出廷が著しく困難な被告には映像・音声を結ぶシステムによる遠隔参加を認めた。
画面越しだと表情が見えにくく、裁判官の心証に影響が出るとの懸念もある。配慮が求められる。
大量の証拠書類をデータで受け取れるようになることは、弁護士側のメリットになるだろう。
気がかりなのは、インターネット事業者などにデータを提出させる罰則付きの「電磁的記録提供命令」の創設も盛り込んだことだ。
サイバー犯罪で捜査機関が押収できるのは「物体」に限られ、データそのものは対象外だ。データを移した媒体を押収する制度はあるが罰則はなく、利用者保護の観点から拒否する事業者もいる。
しかし罰則で事業者が萎縮し、多すぎる情報が捜査機関に渡ることが心配される。
データ収集後の削除規定がない。このため捜査機関に情報が蓄積され、思想の調査が可能になりかねないことへの不安も大きい。
法制審の部会では「広く国民のプライバシーや通信の秘密を侵害する危険が大きい」との強い反対意見が出た。法務省は重く受け止めるべきだ。
今回の要綱に、弁護士側が組織を挙げて導入を求めてきたオンライン接見は盛り込まれなかった。
法務省側が警察署のデジタル化の遅れなどを理由に挙げているが、段階的にオンライン化を広げるなど柔軟な対応も必要だろう。
捜査機関への便宜ばかりでなく、容疑者・被告らの権利擁護も不可欠だ。これらを置き去りにしたままデジタル化を推進することは避けねばならない。