犯罪被害者法20年 「尊厳」守る息長い支援を(2024年2月18日『西日本新聞』-「社説」)

 政府が、殺人や性犯罪などの被害者や遺族への法的支援の強化に乗り出す。関連する総合法律支援法の改正案を今国会に提出する見通しだ。

 今年は犯罪被害者を支援する基本法制定から20年となる。それまで被害者側の権利は、法的に何ら保障されていなかった。突如事件の犠牲となった人や家族の尊厳と人権を守り、公的に支え続けていかなければならない。

 法務省の改正案によると、事件直後から同じ弁護士が告訴や加害者側との示談交渉などを一貫して担う「支援弁護士制度」の導入が柱という。対象犯罪は殺人や不同意性交など、身体・生命への被害の大きなものに絞る方向だ。

 現在は刑事と民事の手続きが、別々の弁護士になる場合がある。被害相談に応じている日本司法支援センター(法テラス)の役割も拡大させ、告訴状や被害届の作成・提出、捜査機関や裁判所などへの同行を実施する。

 支援弁護士制度では弁護費用は原則、公費負担を目指すが、経済状況に応じた資力要件の設定も検討するという。

 小泉龍司法相は「包括的かつ継続的な寄り添い型の援助」を掲げ、改正法が成立すれば2年以内に施行するとの方針を示している。経済的にも精神的にも、被害者側の負担軽減につながる制度を構築してもらいたい。

 これとは別に、警察庁は犯罪被害給付制度に基づき遺族に支払われる給付金の最低額を、現在の320万円から計1千万円超とする方針だ。

 現行制度では死亡した被害者の収入や年齢などにより給付額を算定しており、子どもや主婦らが犠牲になった場合は給付額が低くなりがちだ。事件直後の苦しい時期を克服して生活を立て直すには、相応の給付金が不可欠で、引き上げは妥当と言える。

 重大事件に巻き込まれた被害者や家族の精神的なショックは計り知れず、警察や検察の捜査に冷静に対応するのは容易ではない。事件後も長年、心的外傷後ストレス障害PTSD)に苦しめられるケースも少なくない。

 被害者側の声に丁寧に向き合いながら、ダメージを少しでも軽くする施策を今後も積み重ねていく必要がある。

 「犯罪被害者は被告を裁く証拠としてしか扱われない」-。1990年代から上がった、こうした悲痛な声から生まれたのが基本法である。

 これを受けて、法廷に遺族が被害家族の遺影を持ち込むことや、直接被告に質問することなどが認められてきた。耐え難い被害者感情を考慮し、殺人など凶悪犯罪の公訴時効も撤廃された。

 その一方で、基本法自治体に対しても対応窓口や見舞金などの設置を求めているものの、取り組みには地域格差が生じている現状もある。

 被害者や遺族が置かれた状況は百人百様だ。前例にとらわれない柔軟で息の長い支援を、地域社会で実現したい。