政府は3月末で新型コロナウイルスの治療や医療提供体制に関する公費支援を終了し、通常医療に移行する。新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーとして感染拡大防止に取り組んできた日本医師会の釜萢敏常任理事に、コロナ禍の教訓や今後の感染症対策の在り方について聞いた。
(聞き手 大島悠亮)
--新型コロナウイルスの最初の国内感染確認から約4年。改めてどういうウイルスだったか
「新型コロナウイルス感染症の大きな特徴は症状が出る前から人にうつすことであり、これが非常に厄介だった。感染力が強く、あっという間に全世界的な感染拡大になった。当初はかなり重症化や致死率も高かった。若い方でも突然肺炎になることもあり、医療も逼迫(ひっぱく)した」 「現状はウイルスの株の変異で、それほどたちの悪いものではなくなった。現在では多くの国民が免疫を持っている。
ただ、65歳以上の人は重症化や死亡のリスク上昇があり、普通の病気になったという認識ではない。インフルエンザと比較しても、まだ厄介な病気であるという認識は変わらない」
--対応が特に厳しかった時期は
「(令和3年7月~9月ごろの)第5波の頃だ。当時のデルタ株は強い感染力を持つとともに重症者も多かった。入院の病床も確保しづらい状態があった。これまで感染拡大の波は10回あったが、7波、8波ぐらいになると感染の数が増えても、重症者の数は比較的抑えられる状態で医療もある程度乗り切れた」 「ワクチンの効果も顕著にあった。
一方で、ワクチンを接種した後に体調を崩し、ワクチン接種との関連の可能性がある体調不良の方は一定数いる。私どもはこれらの方々に寄り添い、医療も全力で治療に取り組まなければならない」
--今後もワクチン接種は必要か
「65歳以上にとっては決して侮れない病気だ。特に高齢者は引き続き予防接種してほしい。高齢者に感染させないように、若い方でも体調不良の際はマスクの着用や手洗いなどの感染症対策も徹底してほしい」
--通常医療への移行で、受診控えなどの懸念は
「今後は薬代を含む治療費が高くなる。重症化のリスクのある方が薬剤負担ができないために治療は受けられないという事態が医療現場で問題になってくる場合は、また新たな支援を考えなければならない。ワクチンの接種も65歳以上は補助を受けての定期接種となるが、若い人がワクチン接種を希望する場合は、予防接種代が通常のインフルエンザなどに比べると高くなる。自費で受けたい人がどのくらいいるかという懸念はある。今後の感染状況や予防接種の普及の状況によっては新たに補助を考える必要があるかもしれない」
--日本の感染症対策への意識は変わってきたか
「だいぶ意識が変わってきた。ただ、少し具合が悪くても、無理して出社したり、学校に行くケースはまだあるように思う。新型コロナを経験すると、体調の悪いときには無理をせずに休むという選択も非常に重要だ。それが可能になるような社会の仕組みを作ることが必要だ」
--今年ははしかも流行している
「新型コロナが収束し、人との接触や海外からの渡航が増えたためだ。幼少時に2回のはしかのワクチン接種率が95%に達していれば、流行は食い止められるとされている。新型コロナ禍の経験を踏まえ、必ず定期接種してほしい」
--今後の感染症対策は
「新たな感染症がどういうものかを予想できないので、万全の体制で望むのは現実には難しい。だが、平時からいろいろな感染症が入ってくることを想定して準備すべきだ。新型コロナ以前に、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸症候群(MARS)で大変厳しい状況になった国もあったが、わが国はその経験がなかった。そのため準備が不足し、準備を整えていた国に比べると最初に少し出遅れたのは大きな反省点だ。今後新たな感染症が出てきたときの準備は、今からしっかり取り組まなければならない」
釜萢敏(かまやち・さとし)昭和28年、群馬県生まれ。日本医科大医学部卒。平成26年に日本医師会の常任理事に選出。新型コロナウイルス感染症対策分科会の委員や厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードのメンバーを務めた。
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