偉人の名の酒(2024年2月25日『山陽新聞』-「滴一滴」)

 印象に残るネーミングだ。熊本県小国町の酒造会社が販売する純米酒「北里柴三郎」。町出身で破傷風の血清療法を確立した微生物学者の氏名をそのまま商品名にしている

▼7月から千円札の顔になる。酒は新紙幣発行が決まった2019年に造り始め、720ミリリットルで税抜き千円。物価高のご時世だが千円札に合わせた価格にこだわった

▼偉人と“同姓同名”の日本酒は他にもある。大阪大が手がける「緒方洪庵」だ。岡山出身で江戸末期の蘭学者・洪庵と先祖を同じくする愛媛県の酒造会社から商標を引き継いだ

 


▼きっかけは18年の西日本豪雨だった。被災した酒蔵を大阪大教員がボランティアでたまたま訪れ、被害の大きさから酒造りを断念すると聞いた。同大は洪庵が開いた適塾の流れをくんでおり、洪庵銘柄の存続支援を申し出た

▼大阪大発ベンチャーの仲介で兵庫県の酒造会社に醸造を依頼した。瓶ラベルには、洪庵が天然痘の種痘(ワクチン接種)普及活動を回顧した史料から自署を写し取るこだわりぶりだ。醸造は4年目となり、今年の新酒が来月中旬にも発売される

▼大阪大と愛媛の住民団体などとのネットワーク組織も生まれた。酒の販売収益を活用し、学生が酒蔵のあった地区を訪ね