春闘は絶滅寸前季語?(2024年2月23日『宮崎日日新聞』-「くろしお」)

 歳末の街頭募金の「社会鍋」や「押(おし)くら饅頭」などはまだ分かるが「綾取(あやとり)」までもが”そうなって”いたとは…。俳人の夏井いつきさんらが編集した2巻からなる「絶滅寸前季語辞典」に収録された季語だ。

 ちなみに「綾取」は冬の季語という。それ以上に驚いたのは「春闘」があったこと。解説には「この季語は、景気低迷の続く社会構造によって絶滅の危機にさらされている」。そういいつつも「やがてかつての力強い季語『春闘』が復活することを祈りたい」と。

 この辞典が刊行されたのは2003年。バブル崩壊からおよそ10年後だ。さらにこの5年後にはリーマン・ショックが追い打ちをかけたことを考えるとむべなるかなである。だが、くだんの解説が願っていたように、今年は春闘が力強い季語として戻ってきたかのようだ。

 春闘の本格スタートから1カ月。産業別に見ても多くが昨年を上回る要求を出し、大手企業は早くも5%、10%の賃上げの表明をするなど、景気のいい話が飛び交っている。賃金と物価がそろって上昇する好循環が生まれ、ずっといわれてきたように大規模な金融緩和策が正常化―の運びとなるか。

 どれほどの人が実感できるかは別にして、きのうは東京株式市場で日経平均株価が史上最高値を更新した。「絶滅寸前季語辞典」には「竜天に登る」もある。この季語のごとく日本経済も失速することなく上昇してくれればいいが…。今年の干支(えと)でもあるし。