2017年5月に東和銀行(前橋市)の男性行員(当時25)が自殺し、川越労基署から労災認定されていた問題。報道によると、男性行員は上司からのパワハラの他、休日に上司の自宅で行われる、「〇〇塾」(〇〇は上司の名前)という会に参加させられ、働かされていたようだ。あまり例を聞かないが、上司のこうした行為に法的問題はないのか。
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男性が東和銀行に入行したのは、大学卒業後の2014年春。最初は個人向けの営業などを担当していたが、入行4年目の17年4月、川越支店に異動し、初めて法人向けの営業担当となった。
命を絶ったのはその翌月。不慣れな業務への重圧や、上司から日常的に叱責を受けるなどのパワハラがあったとされる。
さらには、休日に上司の自宅に呼び出され、上司の名前を冠した「塾」に参加させられ、仕事をさせられていたという。
当該の「塾」が仕事につながる私的な勉強会なのか、具体的な会社の業務をさせられていたのかは判然としない。だが、休日に上司が部下を自宅に呼び出し、私塾のような会に参加させたり、何らかの仕事をさせていたとしたら、その行為に法的問題はないのか。部下を休日に働かせるだけでなく、上司自身も休日を使っているという珍しい事案ではある。
企業法務や労働問題に詳しい村松由紀子弁護士はこう指摘する。
「休日に上司が部下を自宅に呼び出して仕事をさせた場合、『労働時間として賃金を支払わなければならないかどうか』『その行為がパワハラに当たるかどうか』という2つの問題を考える必要があります」
■「労働時間」とみなされる可能性が高い
村松弁護士によると、上司が会社の仕事をさせた場合はもちろんだが、勉強会や私塾のような会に参加させた場合も、その時間が労働時間とみなされるケースがあるという。
「まずは、その勉強会が仕事の内容と密接に関連していて、参加しなければ業務に支障が出たり、不利益が生じかねない内容であること。さらに、名目上は参加自由であっても、事実上は上司の圧力があって参加せざるをえない会であれば、会社は労働時間として、部下に残業代を支払わなければなりません」(村松弁護士)
さらに、会社が上司の行為を黙認していた場合は、労働時間とみなされる可能性が高まるという。 貴重な休日を上司の命令で奪われて、報酬もないとしたら誰でも理不尽だと感じるだろう。
また、上司の行為がパワハラに当たるかについてだが、村松弁護士によると、パワハラとは、 (1)職場での優越的な関係を利用して (2)業務の適正な範囲を超えて命令や指示を出し (3)身体的、もしくは精神的な苦痛を与えること。または労働者の就業環境を害すること の3つの要件を満たした場合に該当する。
「上司と部下という関係性の中で、休日に、上司が自宅での会への参加を強要するという形ですから、特に残業代の支払いが無い場合は、業務の適正な範囲を超えた命令をし精神的な苦痛を与えたとして、パワハラとみなされる可能性が高いと思います。残業代を支払ったとしても、参加強制の内容や頻度によっては、パワハラと認定される可能性があります」
■上司の行為は時代に逆行
また、強制参加させられた部下がうつ病などを患った場合、会社は従業員への安全配慮義務を怠ったとして、損害賠償の責任を負う可能性が高くなるという。 村松弁護士によると、近年は、情報通信技術が発達したことによって、労働時間外に業務連絡をしてしまうことが問題になっているという。つながりやすい便利な社会の“負の側面”とも言える。
「ここ最近『私生活と労働の峻別への配慮が必要』という考え方が強まってきています。その事実を考えると、今回の上司の行為はかなり時代に逆行していると感じます。
労働者の生活時間の確保の重要性を、会社や上司は再認識すべきだと思います」(村松弁護士)
従業員の業務時間と生活時間の区別をないがしろにしている管理職は少なくないだろう。何よりも、犠牲者が出てからでは遅いのだ。 (國府田英之)