文献調査の報告書 次のステップに進みたい(2024年2月19日『産経新聞』-「主張」)

 
地域住民が出席した文献調査シンポジウム=北海道神恵内村(坂本隆浩撮影)

原子力発電で生じる高レベル放射性廃棄物(HLW)の最終処分場探しの第1段階である「文献調査」の報告書案がまとまった。

事業を実施する原子力発電環境整備機構(NUMO)が北海道の寿都町神恵内村を対象に約3年がかりで取り組んでいた調査の集大成だ。経済産業省の審議会に提出された報告書案は、今後の審議を経て正式なものとなる。

NUMOは両町村の土地に関する研究論文や地質データを約860点収集し、火山活動や活断層の記録などを調査した。国内で初めてのことである。その労を多としたい。

地下300メートル以深の岩盤を掘削して造られる最終処分場の立地点選定は、文献調査に続く概要調査、精密調査の3段階で進められる。火山や活断層といった処分場に不適な要素を除外しながら段階的に調査範囲を絞り込む方式だ。

この手法で文献調査を進めた結果、寿都町では全域、神恵内村では南端部が概要調査の候補エリアとして示された。文献調査の期間、NUMOの職員は両町村でHLWについての知識などを土地の人々と共有する「対話の場」の回を重ねた。

ぜひとも次の概要調査に進んでもらいたい。音波や電磁波などを駆使する物理探査を適用すれば地下の地質構造が詳しく分かる。技術の進歩に多くの人が目を見張るはずだ。現時点での最大の関門は、鈴木直道知事が概要調査への移行に難色を示していることだ。知事が反対すると、両町村長が賛成しても概要調査への道は閉ざされる。

一方、概要調査に進むと、それに励まされる形で北海道以外の市町村から第3、第4の文献調査への手が挙がることが期待される。そうなればHLWの最終処分は、鈴木氏が危惧している北海道だけが直面する課題ではなくなるはずだ。

日本の原子力発電は現世代の時代である1970年代に始まった。核のごみとも言われるHLWの後始末を将来世代に負わせるのは避けたい。他の原発利用国も同様の考えだ。

フィンランドスウェーデンでは地下への処分で国際的に先行し、フランス、米国などが後を追う。ロシアと中国も精密調査の段階だ。概要調査に進めないと日本は最終処分の後発国になってしまう。