自民党の麻生太郎副総裁の、上川陽子外相に対する「おばさん」発言で思い出したことがある。
20年ほど前になるが、連載マンガで「〇〇のおばちゃん」と呼ぶシーンがあり、抗議を受けた。「私たちの職業には正式な名称がある」「若い人もいるのに、おばちゃん、おばさんと呼ぶのは失礼だ」。
かなりのけんまくで、団体で会社にやって来た。 作者と連絡を取った上で応対し、「親しみを込めた表現で、一般的によく使われており、貶(おとし)めたり、揶揄(やゆ)しているわけではない」と説明したが、納得してもらえない。結局、「今後は表現に十分注意します」と答えて、お引き取り願った。
「おばちゃん」にクレームがつくとは、正直、考えもしなかった。しかし、意図はどうであれ、当事者や読者に不快感を与えたとしたら、その表現はアウトである。苦い教訓になった。
地元の福岡県で講演した麻生さんが、上川外相を「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」と評した。英語力や外交手腕を高く評価し、「新しいスター」と持ち上げてもいるから、「おばさん」はさほど失礼に思えない。 ただし、「そんなに美しい方とは言わんけれども」と容姿に触れたのはいただけない。さらに名前を「カミムラ」と間違え、「女性が日本の外務大臣になった例は過去にないと思う(田中真紀子氏と川口順子氏がいる)」もお粗末な事実誤認である。
麻生さんはこれまでにも、へらず口のような失言、放言で物議を醸してきた。フリーアナウンサーの梶原しげるさんは「そんな言い方ないだろう」(新潮新書)で、失言癖を「ことばの生活習慣病」と呼んだ。
「糖尿病などと同じように、日ごろからきちんとチェックする必要がある」。とくに政治家は自覚症状がなく、気がついたときにはすでに手遅れで、政治生命を失うことにもなりかねない。
上川外相は「どのような声もありがたく受け止めている」と問題視せず、軽く受け流した。そんな「大人の対応」で株が上がったのか、世論調査では次の首相候補としてもランクアップしている。
これで一件落着と思いきや、女性を中心に抗議や反論を求める声が上がり、国会でも立憲民主党の女性議員が「なぜ抗議しないのか?」と上川外相に質問した。麻生さんの発言を女性蔑視、ルッキズム(外見至上主義)ととらえ、古い体質として追及したいようだ。能登地震や「政治とカネ」など喫緊の課題を押しのけて、質疑に時間を割くべきとも思えないが。
批判を浴びて、麻生さんは「不適切な点があった」として発言を撤回したが、上川外相は話題のテレビドラマのタイトルで「不適切にもほどがある」と返せばよかった。(元特別記者 鹿間孝一)