共同親権(2024年2月22日『読売新聞』)

共同親権の導入 「子の利益」確保を最優先に(2024年2月22日『読売新聞』-「社説」)

 離婚して夫婦関係を解消したとしても、親であることに変わりはない。子供の利益を損なうことがないよう、制度や環境を整える必要がある。

 離婚後も父母の双方が親権を持つ「共同親権」の導入に向けて、政府が今国会に民法改正案を提出する見通しとなった。

 現行の民法は、離婚した夫婦のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」を定めている。そのため、親権のない親が子育てに関われないという批判があった。

 新しい制度では、これを見直し、父母が離婚する際、共同親権にするか、単独親権にするかを話し合って決めるようにする。

 親権は、親が子供の世話や教育、財産管理を行う権利で、義務でもある。父母がともに養育に向き合い、責任を果たすのは当然だ。

 2022年の離婚件数は17万9000件に上る。離婚した夫婦の半数には未成年の子供がいる。子供にとって、別に暮らす親と接点を保ち、愛情を確かめながら成長できる意義は大きいだろう。

 ただ、新しい制度に移行する前に、対策を講じておかなければならない課題は少なくない。

 離婚には、相手のDV(家庭内暴力)や虐待を原因とするケースがある。加害者が親権を盾に子供たちにつきまとい、被害が続くようなことがあってはならない。

 また、子供の暮らしや進路を巡って父母が対立を深めれば、子供に悪影響が及ぶこともある。

 こうした場合、家庭裁判所が親権をどうするか判断することになる。家族の事情は様々で、裁判官が親子のあるべき姿を見極めるのは容易ではなかろう。

 家裁に多くの案件が持ち込まれることが予想される。体制を拡充し、準備を整えてほしい。

 子供の養育費についても新たな仕組みが導入される。

 現在は、養育費の取り決めがないまま離婚するケースが多い。国の調査では、母子家庭の6割は受け取ったことがないという。

 このため、離婚時の取り決めがなくても養育費を請求できる制度を創設する。支払いが滞った場合、相手の給与などを差し押さえ、養育費を受けられるようにする。

 離れて暮らす親が子供と定期的に会う面会交流については、祖父母らの申し立ても可能になる。これらを着実に運用してほしい。

 離婚した夫婦の感情的なもつれで、子供が不利益を被るのは理不尽だ。親権や養育費、面会交流は、子供のためにある制度だと周知することが欠かせない。

 

共同親権の導入 子の不利益生じぬよう(2024年2月20日『東京新聞』-「社説」)

 離婚後の共同親権を導入する民法改正案を、自民党部会が了承した。離婚後、父母のいずれかが親権を持つ単独親権を改め、父母が合意すれば共同親権の選択も可能にする内容。政府は3月にも改正案を国会提出する方針で、改正法の公布後2年以内に施行する。
 しかし、共同親権には反対論も根強い。国会審議を慎重に進め、導入するとしても、子どもに不利益が生じないよう、対策を十分講じることを前提にすべきだ。
 親権は、未成年の子の世話や教育、財産管理など養育にかかわる権利や義務などを指す。
 法制審議会が法相に答申した民法改正要綱は、父母の離婚協議で単独親権か共同親権かを選び、折り合わない場合は家庭裁判所が判断。共同親権の場合、進学や病気治療などの重要事項は父母の話し合いで決めるとしている。
 現行制度では親権者は9割以上が母親だが、離婚時の親権争いが増えたため、共同親権の導入は親子の断絶を防ぎ、子の利益にかなうとして支持する意見がある。
 改正案には養育費の不払いを防ぐため、必ず支払うべき法定養育費の創設も盛り込まれている。
 一方、夫婦の合意が条件とはいえ、ドメスティックバイオレンス(DV)や虐待の被害者にとって共同親権は離婚後も加害者との関係を継続することにつながり、悪影響があるとして、与野党内に強い反対論がある。
 改正案は共同親権は父母が合意した場合に限り、DVや虐待がある場合は家裁が単独親権と決めるとしているが、家庭という密室でのDVや虐待は表面化しにくく、証明も難しいのが現実だ。
 配偶者間の力関係で共同親権を強制されることへの懸念は残る。個別の事例に合わせて家裁が共同親権の可否を判断できるのかという課題もある。
 父母が親権の選択を巡って対立した場合、家裁が調整や判断を行うが、合意に至らず紛争となることもあり得る。制度が変更されることで問題や紛争が続発する事態になれば本末転倒だ。
 仮に共同親権を導入するなら、DV防止など被害者を守る制度拡充をはじめ、問題を抱える家族への支援拡充が前提だ。あらゆる観点から慎重に審議し、改正案に足らざる点があれば補う賢慮ある国会審議を望みたい。最も尊重されるべきは子どもの利益である。

 

離婚後の親権/子どもの幸せを最優先に(2024年2月22日『神戸新聞』-「社説」)

 子どもの幸せを最優先に、丁寧かつ慎重な議論が求められる。

 法制審議会は、離婚後に父母の双方が親権を持つ「共同親権」を可能にする民法改正の要綱を小泉龍司法相に答申した。法務省は今国会に関連法案を提出する方針だ。

 現行の民法は父母どちらかの「単独親権」に限っている。法が成立すれば、離婚後の家族の在り方は大きな転換点を迎える。子どもの将来を左右しかねず、審議会では反対の声もあった。懸念材料を残したまま拙速に導入を決めてはならない。

 要綱では、父母は離婚の際に単独親権か共同親権かを選び、合意できなければ家庭裁判所が親子関係などを踏まえて決める。ただし、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の恐れがある場合、家裁は父母どちらかの単独親権とする。


 家庭という密室で暴力の有無を立証するのは難しい。家裁が個別のケースを適切に見極められるかどうかが厳しく問われよう。

 親権は、未成年の子どもを養育するために親が果たすべき責任のことである。身の回りの世話や教育をする「監護権」と、子どもの預貯金の管理や契約行為を代理する「財産管理権」に大別される。

 共同親権の下では、子どもの進路や転居、病気の長期治療、子どもが相続した財産の処分といった重要事項については、父母が話し合って決める。両者の意見が対立した場合はその都度、家裁が誰が決定するかを判断する。

 父母が互いを尊重し、協力できる関係を築けていれば、共同親権は子どもの育成に有益だろう。しかし、家族の事情はさまざまだ。両親の関係がこじれて重要事項の合意が難しいと、子どもが多大な不利益を被る可能性がある。

 DV被害の当事者らは「そもそも力関係に差があり、対等に話し合えない」と訴える。共同親権を支持する専門家からも、「共同親権に同意しないと離婚には応じないとか、別居親が親権によって子どもの教育やしつけに介入する恐れがある」との指摘が出ている。

 子どもの養育を巡って重要な決断を下すことになる家裁の体制構築が不可欠だ。先進国の中で後れを取っているDVや虐待の被害者保護の拡充にも取り組まねばならない。


 要綱は、多発する養育費の不払いに対応して給料などを差し押さえしやすくすることや、必ず払うべき「法定養育費」の創設などを盛り込んだ。安心して面会交流できる仕組みづくりも課題となる。


 何より当事者の子どもの意思をくみ取り、最大限反映させる制度にすることが肝要だ。