離婚後の子の利益が最優先だ(2024年2月17日『日本経済新聞』-「社説」)

 

法制審議会は共同親権の導入案を小泉龍司法相㊧に答申した

 離婚後も父母双方に親権を認める「共同親権」の導入を柱にした民法改正要綱を、法制審議会が法相に答申した。政府は今国会に法案を提出する方針だ。離婚後の子どもの利益を最優先に、必要な対策を急いでほしい。

 現行法では婚姻中は双方に親権があり、離婚後はどちらかの単独親権となる。法改正後は離婚の際、共同親権にするか、父母どちらかの単独親権にするか、父母が話し合って決める。折り合わない場合は家庭裁判所が判断する。

 親権は、子どもの身の回りの世話や教育、居住地、財産の管理など幅広い範囲に及ぶ。子どもと父母双方のかかわりの重要性から主要国では共同親権を認める国が主流だ。導入の意義は理解できる。

 一方で不安の声も根強い。特にドメスティックバイオレンス(DV)や子どもへの虐待がある場合、離婚後も続くとの懸念だ。

 子どもの心身に害悪を及ぼす恐れがあると認められる場合や、DVによって共同で親権を行使することが困難と認められる場合は、家裁が単独親権にしなければならない。個々の家庭の実情を把握し審理する家裁の責任は重い。体制 整備など早急な対応が必要だ。

 日本では「家庭のことは家庭で」という意識が強く、離婚の悩みに対する社会的なサポートやDV、虐待問題への介入・支援も十分とはいえない。これらの支援を充実させることも、不安を減らすうえで欠かせない。

 答申は養育費を確保しやすくする方法も盛り込んだ。事前に取り決めずに離婚しても一定額を請求できる「法定養育費」制度の新設などだ。そもそも養育費は親権の有無にかかわらず、親の責務だ。この原則は改めて確認したい。

 親権は「その子の利益のために行使しなければならない」とも明記した。親が離婚した未成年の子どもは2022年で約16万人に上る。子どもの健やかな成長を、父母が、そして社会全体で支えるためにさらに何が必要か、国会審議で幅広く議論してほしい。