4歳児死亡で両親逮捕(2024年2月17日) 

4歳児死亡で両親逮捕 幼い命なぜ救えなかった(2024年2月17日『毎日新聞』-「社説」
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 痛ましい事件である。幼い命が失われる事態を防ぐことはできなかったのか。

 4歳だった次女を殺害したとして、東京都台東区に住む両親が殺人容疑で逮捕された。

 次女は昨年3月に死亡した。体内から向精神薬の成分と、自動車のエンジン冷却などに使われる不凍液の成分が検出された。

 それぞれ意識障害、腎不全などを引き起こす恐れがある。誤飲の可能性は低く、警視庁は両親が摂取させたとみている。

 児童虐待で薬物が使われたとすれば、異例のケースだ。非道と言うほかない。

 父親は容疑を否認し、母親は黙秘しているとされる。

 次女死亡の1年ほど前から、通販サイトで向精神薬や不凍液を購入していたことが確認されたという。警視庁は捜査を尽くし、全容を解明する必要がある。

 虐待を疑わせる兆候を、行政は把握していた。

 8年前に一家が引っ越してきた際、都や区は転出元の自治体から、夫婦げんかが長男、長女への心理的虐待になっているとの情報提供を受けていた。

 次女が生まれた2カ月後、母親が自宅で衣類に火を付けるトラブルを起こし、都の児童相談所は次女を含む子ども3人を一時保護していた。

 解除後、次女は6カ所の保育施設を転々とし、週末しか自宅に戻らない時期もあった。死亡の半年前から4カ月前にかけては、保育園から5回、たんこぶなどのけがが区に報告されていた。

 区は父親と定期的に電話で連絡を取り、児相と情報を共有していたという。

 けがの報告があった際、父親は区の担当者に「家の中でぶつけた」などと説明した。次女の話とも矛盾せず、虐待ではないと判断していた。

 児相や区の対応は十分だったのか。検証が欠かせない。

 虐待で子どもが亡くなるケースは後を絶たない。青森県八戸市では、5歳女児に浴室で水を浴びせて放置し死亡させたとして、母親と交際相手が逮捕された。

 悲劇を繰り返さないためには、どうすればいいのか。社会全体で対策を考えなければならない。

 

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4歳女児を殺害 この命は救えなかったか(2024年2月17日『産経新聞』-「主張」)

送検のため、警視庁原宿署を出る細谷健一容疑者を乗せた車

 明るく、かわいい子だったと、同じ保育園に子供を通わす母親は涙ぐんだ。わずか4歳で殺害されたこの命を救うことはできなかったのか。機会は何度もあった。関係者は猛省し、検証を尽くさなくてはならない。

 当時4歳の次女に不凍液に含まれる有害物質や向精神薬を摂取させて殺害した殺人容疑で、両親が警視庁に逮捕された。父親は関与を否定し、母親は黙秘しているという。

 子の命を守るのは親の役目だが、残念ながら守れない親、子に危害を与える親もいる。その子の命は社会が守らなくてはならない。家庭に踏み込む難しさはある。それでも子供の命を救うために、躊(ちゅう)躇(ちょ)はいらない。

 女児の誕生前、兄と姉は両親からネグレクト(育児放棄)を受けたとして児童相談所に通告されていた。

 平成31年3月、母親が自宅ベランダに放火した容疑で逮捕され、都児童相談センターが子供3人を一時保護した。令和元年9月までに一時保護を解除、その後は児童福祉司の指導などで支援を続けていたが、父親側の意向で3年3月以降は主に電話での連絡のみとなっていた。

 児相は4年、次女を預けた保育所から5回も顔などに傷があるとの報告を受けていたが、父親は電話での聞き取りに「寝相が悪くてぶつけた」などと説明し、これを受け入れて単なるけがと判断していた。致命的なミスの連続である。

 親による虐待で子が命を失う悲しい事件のたびに、あのときにこうしていれば、ああしていればの後悔、失態、判断ミス、不作為などが明らかになる。そして反省は生かされない。悲劇は繰り返される。

 平成31年1月、千葉県野田市で当時10歳の小学4年女児が父親の虐待により亡くなった事件では、県の検証委員会が報告書をまとめた。

 報告書は、市、児相、小学校、教育委員会などの一連の対応を「ミスがミスを呼び、リスク判断が不十分なまま一時保護が解除され、漫然と推移した末に痛ましい結果を招いた」と指弾し、「救える命だった」と結論づけた。

 こうした事件の反省から児童虐待防止法が改正され、児相の介入機能は強化された。法を改めても、実行が伴わなくては絵に描いた餅にすぎない。