少子化対策 国民の負担を正面から論じよ(2024年2月21日『読売新聞』-「社説」)

 少子化に歯止めをかけられなければ、経済は停滞し、福祉などのサービスを維持するのも難しくなる。その深刻さを政府は正面から説き、負担増への理解を求める必要がある。

 政府が子ども・子育て支援法などの改正案を決定した。児童手当や育児休業給付の拡充が柱だ。

 児童手当については、所得制限を撤廃し、現在は0歳から中学生までとなっている支給対象を、高校生まで拡大する。

 このほか、妊婦に10万円相当を給付する制度や、2歳までの未就園児について、時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度」の導入も打ち出した。

 少子化の大きな要因として、子育てにお金がかかるため、若い世代が結婚や出産をためらっているという指摘は多い。そうした問題意識から、政府は経済的支援を重視したのだろう。

 ただ、今回の対策は、既に子供がいる世帯を対象にした施策が目立ち、若者に結婚や出産を促す力には欠けている。政府は、国会審議を通じて、より効果的な対策を検討していくことが大切だ。

 少子化という国難を乗り越えるには、企業の協力も不可欠となる。初任給の引き上げなど若い世代の所得の向上や、非正規から正規への転換といった取り組みを積極的に進めてもらいたい。

 政府は少子化対策の予算として、2028年度までに年3・6兆円を確保する方針だ。社会保障の歳出抑制などで2・6兆円を賄い、残る1兆円を、医療保険に上乗せして国民と企業から徴収する「支援金制度」で手当てする。

 国民1人あたりの支援金の負担額は、月500円弱になるという。将来を担う子供を育てるため、社会全体で費用を分かち合うという狙いは妥当と言えよう。

 理解に苦しむのは、岸田首相の説明だ。支援金を徴収したとしても、「歳出改革と賃上げにより、国民に実質的な負担は生じない」と繰り返し述べている。

 社会保障の歳出改革が進めば、国民が負担する社会保険料を抑えられることになるし、また大幅な賃上げが実現すれば、負担が相殺される、と言いたいのだろう。

 だが、実際には支援金は給料や年金から天引きされる。社会保障費の削減が進めば、医療や介護のサービスは低下しかねない。

 国民からすれば、負担をごまかすかのような説明に聞こえるのも無理はない。正直に、負担の内容やそれによって得られる政策の効果を説いていくのが筋だろう。