岸田式「ステルス増税」は子育て支援金だけじゃない…負担増を「実質負担なし」とぼけ続ける強心臓ぶり(2024年2月17日『東京新聞』)

岸田文雄首相が掲げる「異次元の少子化対策」を目指す政府は16日、児童手当の拡充、育児休業給付率の引き上げや「こども誰でも通園制度」創設などを柱とする少子化対策関連法案を閣議決定し、衆院に提出した。少子化対策の財源の一つとして、公的医療保険料と併せて徴収する「子ども・子育て支援金」は2028年度時点で「1人当たり月500円弱」。岸田首相は賃上げと歳出改革により「実質的な負担は生じない」と繰り返している。識者が「詭弁(きべん)に聞こえる」と疑問を投げかける理屈を、首相は支援金以外でも持ち出している。
閣議に臨む岸田首相(中央)ら=16日、首相官邸で

閣議に臨む岸田首相(中央)ら=16日、首相官邸

◆「歳出改革と賃上げで実質的な負担軽減」?

 15日の衆院予算委員会共産党の宮本徹氏は、歳出改革によって医療や介護の公費による支出が減る分、利用者の自己負担は増えると主張。武見敬三厚生労働相は「一定の負担が増える世代層が特に高齢者層に出てくる」と認めたが、「実質的な負担増とはならない」とも強調し、首相と同じ主張を繰り返した。
 首相の説明は「歳出改革と賃上げで実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築する」というもの。だから「負担」は生じないとの理屈だが、医療・介護分野の歳出改革の具体的な内容や効果が示されていない上、賃上げは民間企業次第の部分が多い。
 公明党高木陽介政調会長は14日の記者会見で、支援金を巡る政府の説明について「分かりにくく、国民の理解が進まない要因だ」と苦言を呈した。

◆この理屈なら「どんな政策も通ってしまう」

 歳出改革や賃上げにより実質負担が生じないという理屈は、増税など国民に負担を求める他の機会にも使われかねない。支援金制度による1人当たりの負担額を試算した日本総合研究所の西沢和彦理事は「この説明を言い出したら、どんな政策でも通ってしまう」と批判する。実際、首相は14日の衆院予算委で防衛増税を巡り「経済成長と構造的な賃上げで負担感を払拭できるよう取り組む」と述べている。
 西沢氏は「歳出改革で社会保障給付費を抑制した際に自己負担が増えれば、それは『負担』だ。医療や介護の人材不足や質の低下が起きれば、それもサービス低下という『負担』になる」と指摘。その上で「負担がないことを是としていること自体が間違っている。正直に負担内容を説明し、給付と負担が見合うかどうかを国民に問うのが政治の責務だ」と話す。 (坂田奈央)

 政府の少子化対策 岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を掲げ、児童手当や育児休業給付の拡充、親の就労の有無を問わず保育を利用できる制度を盛り込んだ「こども未来戦略」を2023年12月に閣議決定した。国と地方を合わせて、新たに年3兆6000億円規模の予算を充てる。財源確保の仕組みが整う28年度には、既定予算の活用で約1兆5000億円、社会保障の歳出改革で約1兆1000億円、「子ども・子育て支援金」で約1兆円を捻出する。支援金の徴収は26年度から始め、段階的に引き上げる。