毎日新聞2024/2/21 東京朝刊630文字
方言を使うと、罰として木札を首からぶら下げさせられる。誰かが方言を話すのを見つけるまで解放されない。同級生の背中を蹴って「あがー(痛い)」と方言を使わせる子もいれば、つまはじきにされ、じっと耐える子もいたという
▲罪深い制度は戦前の沖縄の学校で標準語励行のために使われた「方言札(ほうげんふだ)」である。罰札とも言う。先日、テレビのバラエティー番組で沖縄出身の俳優が「方言禁止記者会見」の企画に参加し、過去の歴史を連想させると議論になった
▲源流はフランスという。革命後に中央集権的な仏語教育が進み、学校でブルトン語など方言の使用が禁じられた。違反者は「シンボル」と呼ばれた罰札を首からぶら下げた
▲しかし、言語の強制は時に紛争を生む。1952年2月21日、パキスタンの一部だった今のバングラデシュでベンガル語の公用語化を求める学生デモに警官隊が発砲した。きょうは独立につながった事件に由来する「国際母語デー」だ
▲母語は母国語とイコールではない。多民族国家には多くの母語がある。多様性尊重の時代に罰札は必要ないはずだが、世界的には消滅の危機にある母語も少なくない。ロシア系住民が多いウクライナ東部では母語の違いが紛争激化の一因になったという
▲日本にもアイヌ語があり、沖縄方言は琉球語と呼ばれる。「沖縄語を以(もっ)て談話しある者は間(かん)諜(ちょう)(スパイ)とみなし処分す」。米軍の沖縄上陸後に旧日本軍が出した命令だ。そんな言葉の複雑な歴史は踏まえておきたい。