陸自訓練場反対超党派 計画は即時撤回すべきだ(2024年2月18日『琉球新報』-「社説」)

 うるま市石川のゴルフ場跡地に陸上自衛隊の訓練場を新設する計画について、石川地区の与野党市議が沖縄防衛局に対し、計画反対を伝えた。石川地区の全15自治会でつくる石川地区自治会長連絡協議会も玉城デニー知事に計画断念を求める立場で防衛省に働きかけるよう要請した。

 超党派による反対運動の背景には、地域住民の強い危機感がある。予定地が静かな住宅地に隣接している上に、教育施設もあるのだ。
 沖縄全体の軍事要塞化が急速に進んでいる。辺野古新基地建設に加え、自衛隊の増強、軍事拠点化を意図した特定利用空港・港湾への指定がある。米海軍のミサイル駆逐艦の石垣港寄港計画には、港湾労働者が反発している。
 17日の木原稔防衛相との会談で玉城知事は計画を白紙に戻すよう求めた。木原防衛相は土地の利用の在り方を再検討するよう指示したと明らかにしたが、住民の意思は建設反対である。防衛省は即時、計画を撤回すべきだ。
 今月11日に防衛省が開いた住民説明会では、住民から「区民のことを何も考えていない」などと反対の声が相次いだ。生活環境悪化への危惧は強く、防衛省側は住民の不安を払拭できなかった。
 訓練場では、新隊員の教育、災害への対処訓練、ミサイル展開など部隊展開訓練を実施する。防衛省は当初、空包の使用やヘリの輸送訓練も予定していたが、説明会では、実弾、空包、照明・発煙筒などの化学火工品は使わず、災害時や緊急時などを除いてヘリは飛行しないと説明した。
 住民の反対を弱めるための懐柔策であろう。しかし訓練場ができてしまえば「日本を取り巻く安全保障環境の悪化」などを理由に、なし崩し的に訓練内容を変更しかねない。与那国や石垣がいい例だ。
 与那国駐屯地は当初、沿岸監視部隊の配置のみだったが、地対空ミサイル部隊の配備が決まった。石垣駐屯地については昨年4月の建設段階で「日米共同使用や訓練は現段階で全く計画されていない」と説明されていたが、数カ月後には日米共同訓練が実施されるなど、当初の説明と異なる運用になっている。
 新訓練場について政府関係者は「自衛隊は将来的に、いろんな使い方を考えるだろう」と話した。住民説明会で示された内容は信頼できない。
 うるま市では、陸自勝連分屯地に地対艦ミサイル部隊とミサイル連隊本部の新編も予定されている。訓練場新設は石川地区だけの問題ではない。沖縄の軍事要塞化を考えれば、沖縄全体の問題だ。平時における事故や騒音などの被害に加え、有事の際には、攻撃目標にされる。
 地元住民や党派を超えた市議の反対がある以上、防衛省が建設計画を強行することは許されない。辺野古新基地同様、住民の意思を無視するのなら、もはやこの国は民主主義を放棄したのに等しい。

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陸自訓練場 動き急 地元目線で計画撤回を(2024年2月18日『沖縄タイムス』-「社説」

 陸上自衛隊の訓練場建設を巡って、計画撤回を求める動きが地元うるま市で急速に広がり、大きな政治問題に発展しつつある。

 県議会の照屋守之副議長(うるま市区選出、無所属)は13日会見し、地元合意がないまま計画が進められていることを批判し、計画を撤回すべきだと表明した。

 翌14日には自治会代表や県議、市議らが共同代表を務める「自衛隊訓練場設置計画の断念を求める会準備会」が発足した。

 そして16日。うるま市の石川地区自治会長連絡協議会と同市区(定数4)選出の県議3人が玉城デニー知事を訪ね、「計画の断念を求める立場に立つこと」を要請した。

 こうした中、木原稔防衛相は17日、那覇市内で基地を抱える11市町村長と面談し、自治体から要望を聞いた。

 うるま市中村正人市長は訓練場建設計画について「地元の声を真摯(しんし)に受け止め、よく検討していただきたい」と要請した。

 防衛相と個別に会談した玉城デニー知事は「白紙に戻して見直すよう」求めた。計画の撤回を求めたものだ。

 この件については自民党県連(仲田弘毅会長)からも計画の見直しを求める要請書が提出されている。

 木原防衛相は一連の要請を「重く受け止め、改めて検討していきたい」と答え計画の見直しを示唆した。

 だが土地取得を前提にした見直しであり、計画撤回には踏み込んでいない。地元との隔たりは依然として大きい。■    ■

 自治会長会の與古田ゆかり会長は、防衛省が実施した昨年12月22日の当初説明と今月11日の住民説明会で「訓練内容が全く違い、余計に怖い」と語る。

 当初の訓練計画を変更し、受け入れやすいようにソフト路線を前面に掲げたそのやり方が「造ってしまえば後は…」との下心を感じさせ、不信感を招いたのである。

 それが杞憂(きゆう)と言えないのは与那国町などの事例があるからだ。

 住民が反対しているのは、住宅地や教育施設に近接し、生活への影響が懸念されるからである。実は問題はそれだけにとどまらない。

 戦前の旧日本軍施設は戦後、本土でもその多くが米軍施設となった。復帰とともに沖縄に移駐した自衛隊は、その施設の多くを米軍から引き継いだ。

 過去のこうした事例は、米軍基地であれ自衛隊基地であれ、基地を新設することがいかに困難であるかを物語る。

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 「基地の整理縮小」や「基地の負担軽減」は、復帰以来変わらない県政の最重要課題である。

 今も沖縄には米軍専用施設の約7割が集中する。米軍は日米地位協定と同協定の合意議事録に基づいてさまざまな特権を与えられている。

 安全保障が住民の日常生活を脅かすという逆説。その上、新たに自衛隊の訓練場が新設されようとしているのである。

 他県ではまず起こり得ないような「過重負担」を認めるわけにはいかない。