92人の参加者のうち50人程度は市職員の動員だった。自衛隊員の参加もあった。一般市民は40人程度にとどまる。訓練内容は模擬の全国瞬時警報システム(Jアラート)が流れ、参加者は公園から道向かいの石垣市民会館に移動し、ホール内で頭部を守る姿勢を取るというものだ。
緊急時の行動手順を確認することはできただろう。万一のための心構えを持つという意味もあろう。しかし、ミサイル襲来にどれほど役立つか、市民の大半は疑問に感じている。一般参加が少なかったのは、その表れであろう。
なぜ、今回の訓練が実施されたのか。国民保護法は武力攻撃事態を想定した訓練実施を求めているが、それ以上に、石垣市で進められている自衛隊増強と軌を一にした動きと捉えるべきである。
「台湾有事」への対処を名目に防衛省は昨年3月、陸上自衛隊石垣駐屯地を開設した。さらに施設拡大を進めようとしている。一方、石垣市側は千~2千人を収容できる規模のシェルターの整備を求めている。いずれも有事を前提とした動きだ。今回の訓練もその一環であり、自衛隊増強、軍事拠点化の地ならしとも言えるものである。
しかし、このような動きに市民の多くは距離を置いている。「台湾有事」を背景とした「抑止力向上」ではなく、粘り強い対話を踏まえた信頼関係の醸成による緊張緩和を市民は求めていよう。石垣市を含む沖縄の島々で急速に進む自衛隊増強は逆の方向をたどるものである。
同時に、今必要とされるのは甚大な自然災害に対する備えだ。元日に起きた能登半島地震の惨状に接し、県民も大地震や津波襲来から命を守る訓練や、十分な耐震性を持つライフライン整備の必要性を実感している。その備えをこそ国、県、地方自治体は急ぐべきだ。
沖縄戦の前、子どもたちは「空襲警報聞こえてきたら 今は僕たち 小さいから 大人の言うこと よく聞いて あわてないで 騒がないで 落ち着いて 入っていましょう防空壕」という歌を学び、訓練をした。
しかし、実際の空襲や艦砲射撃、地上戦では多くの子どもたちが命を落とした。石垣市や竹富町では日本軍の命令による強制疎開で多くの住民がマラリアの犠牲となった。
国の論理に基づく有事の備えでは住民の命を守れない。そのことを沖縄や八重山の体験が証明しているのである。