サンゴ訴訟県敗訴 自己決定権踏みつけるな(2024年2月16日『琉球新報』-「社説」)

 名護市辺野古の新基地建設に向けた、沖縄防衛局による大浦湾のサンゴ類移植を不許可とした県に対し、移植を許可するよう指示したのは違法だとして、県が取り消しを求めた訴訟で、福岡高裁那覇支部は県の訴えを棄却した。
 国は今回のサンゴ移植についても、辺野古埋め立ての承認撤回の効力を取り消した時と同様、私人の権利救済を図るための行政不服審査請求の制度を利用した。判決は「身内の手続き」で県の決定を取り消し、埋め立てを強行する国にお墨付きを与えた。沖縄の自己決定権を踏みつけるもので、到底受け入れられない。

 判決は「埋め立て事業の遂行に伴って(サンゴが)死滅等に至ることが避けられないから、移植は必要な措置だ」と指摘。県の対応は「裁量権の範囲の逸脱またはその乱用に当たる」と請求を棄却した。


 サンゴの移植に関する特別採捕許可申請を巡り、2020年に続き裁判に発展するのは2度目だ。最高裁で県が敗訴した時と同じ判断で県の敗訴となった。実質審理をしたのか疑問だ。

 沖縄防衛局は22年、埋め立て予定区域のうち軟弱地盤が見つかった大浦湾側に生息するサンゴおよそ8万4千群体の移植作業について県に許可を申請した。県が判断を保留する中、23年3月、防衛局の申請通りに移植を許可するよう、農林水産相が県に是正を指示した。県は国の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を申し出たものの退けられ、昨年8月に提訴した。

 判決は国の移植作業の妥当性を認めた。しかし、防衛局は昨年10月、有識者を集めて設置した環境監視等委員会で、サンゴを移植しないまま辺野古崎付近の護岸工事に着手しても「生息環境は維持される」との想定を示している。国自身が「水産資源保護上必要な措置」という判決を否定しているのに等しい。

 沖縄防衛局が18年に移植した絶滅危惧種オキナワハマサンゴ9群体のうち、既に7群体は死滅していることが詳細に報告されている。国は原因を調査することなく工事を進めており、生物資源の保護を軽視しているのは明らかだ。

 辺野古新基地建設の完成時期について、在沖米軍幹部は「早くて2037年になる」と述べ、新基地の完成後も普天間飛行場を継続使用する可能性も示唆している。負担軽減にもつながらないだけでなく、追加の地盤改良も含めて県の試算で2兆5500億円とされる事業費が費やされる新基地建設は断念すべきだ。

 国と地方は「対等・協力」の関係なはずだ。判決後に玉城デニー知事は「地方自治の本旨を顧みないものと言わざるを得ない」とコメントしたが、その指摘は当然だ。

 辺野古新基地を巡る国と県の裁判はこれまでに14件あり、県敗訴の厳しい判決が続く。だが、国策によるこれ以上の負担を拒否する民意を忘れてはならない。