レギュラー放送終了のNHKブラタモリ、教養エンターテインメント番組の金字塔(2024年2月17日『サンケイスポーツ』-「社説」)

タモリ

■2月17日 「テレビってけっこう役に立つことを教えてくれる。馬鹿にできないわよ」。村上春樹の短編小説「木野」に出てくる、主人公の伯母の言葉だ。「このあいだNHKを見ていたら」とも。作者が本当にそう思っているかどうかは知らないが、小欄は「ブラタモリ」を思い浮かべてうなずいた。 

タレントのタモリが日本各地や海外を訪ね歩き、その土地の自然や歴史などを伝えるNHKの同番組を2008年の放送開始から欠かさず見ている。最大の魅力は他の紀行バラエティーにはない教養の深さだ。それを支えているのがタモリ。中でも地理の分野では的確な知識を披露しつつ、彼らしいユーモアと笑いを忘れない。 

そんな教養エンターテインメント番組の金字塔が、3月末でレギュラー放送を終了する。昨年3月には、欠かさず録画していたテレビ朝日系「タモリ倶楽部」が40年の歴史に幕を下ろした。 

NHKは、レギュラー放送終了の理由を「あくまでもわれわれ(の事情)」としたが、タモリが78歳の高齢ということも影響しているのだろう。今年1月6日にNHKで放送された「タモリ鶴瓶のテレビDEお正月2024」で「体調は大丈夫」としつつも「物忘れがひどい」と告白していた。 

漫画家の赤塚不二夫さんの葬儀でタモリが読んだ約8分間に及ぶ弔辞が、白紙を開いての勧進帳だったことは有名な話だ。教養をひけらかすわけではなく、笑いとともにそれとなく披露できる稀有(けう)な存在。「ブラタモリ」は、それを体現した真骨頂といえる。そうした芸が思うようにできなくなる前に身を引くべきだと考えていても不思議ではないが…。一時代の終わりを告げられたようで寂しい。(鈴木学)