広島市の職員研修で松井一実市長が「教育勅語」の一部を職員研修資料に使用していることを受け、市民団体らが16日、研修に参加した職員の感想や研修の様子を収めた動画を明らかにした。団体が市に情報公開請求し開示された。団体は同日、引用の撤回を求める要請書を市研修センターに提出した。
提出したのは「教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま」と日本ジャーナリスト会議(JCJ)広島支部。両団体は2023年12月にも抗議文を提出している。 ◇「肯定的」研修参加の職員感想 開示されたのは過去4年分のオンライン形式での新任課長級研修動画と、過去2年分の新任課長級と新規採用職員の研修を受けた職員の感想が記載された文書。新任課長級研修の感想には「教育勅語には、現在の民主主義に通じる思想が既に盛り込まれていたという解説が印象に残った」「初めて教育勅語に接し、とらえ方によってさまざまな考え方がなされうると体感した」などと記されている。
記者会見した同ネットワークの岸直人さん(70)は「市長が話していたことをうのみにし、肯定的に受け止めていたことに驚いたし、非常に問題だ」と指摘。「一過性の失言ではなく、広島の平和行政のあり方にからむ問題だという意識を市民にも持ってほしい」と訴えた。
同席したJCJ広島支部の藤元康之さん(71)は、教育勅語が戦後、国会の決議によって廃止されたことに触れ、「戦後の国会が明確に否定、廃棄したものを市長として研修で使用しているのが一番の問題。世界に平和を発信する義務がある広島市長がなぜ、臣民を戦争に導くために使われた教育勅語を研修で使用しているのか」と問題提起した。
要請書では、23年の研修で、市長が教育勅語の英文について「民主主義の先端をいくようなもの」と説明したとして、民主主義を感じるポイントを回答することも求めている。【武市智菜実】
第2回国会
昭和23年6月19日
参議院本会議
教育勅語等の失効確認に関する決議
われらは、さきに日本国憲法の人類普遍の原理に則り、教育基本法を制定して、わが国家及びわが民族を中心とする教育の誤りを徹底的に払拭し、真理と平和とを希求する人間を育成する民主主義的教育理念をおごそかに宣明した。その結果として、教育勅語は、軍人に賜はりたる勅諭、戊申詔書、青少年学徒に賜はりたる勅語その他の諸詔勅とともに、既に廃止せられその効力を失つている。
しかし教育勅語等が、あるいは従来の如き効力を今日なお保有するかの疑いを懐く者あるをおもんばかり、われらはとくに、それらが既に効力を失つている事実を明確にするとともに、政府をして教育勅語その他の諸詔勅の謄本をもれなく回収せしめる。
われらはここに、教育の真の権威の確立と国民道徳の振興のために、全国民が一致して教育基本法の明示する新教育理念の普及徹底に努力をいたすべきことを期する。
右決議する。
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広島市の市民団体「教科書問題を考える市民ネットワーク・ひろしま」は、松井一実市長が「教育勅語」の一部を引用した2020~23年度の職員研修の動画をブログで公開した。
動画では、松井市長が教育勅語に触れているのは各年度で約1分半~3分。「日本が戦争体制に持ち込む時に用いられた」として現在は否定されている点を紹介した上で、修学や公益を説く箇所を示し「民主主義の素晴らしいことを書いてある文書に見える」などと述べている。
同団体は、市へ関連資料を情報公開請求し、入手した。研修後の職員の感想を書いた報告書には、引用に否定的な意見はなかったという。16日に市役所で記者会見した事務局の岸直人さん(70)は「なぜ市長が教育勅語にこだわるのかわからない」として引用中止を訴えた。(野平慧一)