南城市文書無断作成 契約解除強要は不誠実だ(2024年3月16日『琉球新報』-「社説」)

 通常の行政手続きから懸け離れている。市が不都合な事柄を隠すために契約打ち切りを急いだのであれば、許されない。背景を徹底して解明すべきだ。

 古謝景春南城市長の運転手をしていた女性が「市長からセクハラを受けた」と市に申告した後、業務委託契約を解除された問題で、市が女性の名前・住所を無断で記入した変更契約書を作成していた。
 この契約書は、市と女性が結んだ市長車運転業務委託を2022年12月末で打ち切るもので、女性は同意していない。市の判断で女性の個人情報を記入した文書を作成したことになる。調査をせずに一方的に契約解除を迫る対応は拙速で不誠実だと言わざるを得ない。
 セクハラ疑惑を巡っては、女性側が市長と市を相手に、慰謝料などを求める訴訟を那覇地裁に起こした。今後、事実関係が明らかになるはずだが、今回の文書作成については専門家も「双方が合意しているかのように誤解を与える可能性があり、不適切な文書の作成・保存だ」と指摘している。
 市が作成した経緯説明の文書には、市長の行為には一言も触れず、「精神的不安があり業務を遂行できないとの申し出があった」などとして、女性側に責任を押し付ける内容が書かれていた。主張が一顧だにされなかった女性が納得できるはずがない。署名を拒否するのは当然だ。
 女性からの申告を機に事実上解雇する一連の対応について、市は本紙の取材に対し事実を認めた上で「配慮が足りなかったが、契約上やらないといけなかった」と説明した。業務委託を含め職の安定に努めるべき市役所が取るべき対応ではない。
 肝心の市長は自身のセクハラ疑惑を問われた市議会本会議での答弁で、被害を訴えている女性の個人情報を暴露するなど、人権感覚を疑われるような対応に終始している。2月もSNSで、女性や家族の情報を一方的に明らかにし「これまで応援して来ました。裏切られるとは」などと投稿した。識者は「声を上げようとする人への脅しだ」と指摘している。
 今回の女性以外に、市がセクハラ問題に真摯(しんし)に向き合ってきたかも疑問が残る。22年11~12月に市職員を対象に実施したアンケートの中で、セクハラを「受けたことがある」という回答が全体の15・2%あったほか、パワハラを「受けたことがある」という回答も8・8%あった。だが、市長のセクハラ疑惑の発覚後、市は「これまでハラスメントの申告はない」と説明している。市は職員を守るためにも相談しやすい窓口へと早急に在り方を見直すべきだ。
 一連の市の対応は職員だけでなく市民からの信頼を失墜させるものだ。被害者の訴えに正面から向き合い、人権を優先する組織改革が求められている。