相次ぐ質問封じ 「知る権利」軽視するな(2024年3月14日『信濃毎日新聞』-「社説」)

 「国民の知る権利」を脅かしかねない。

 長崎幸太郎山梨県知事の報道各社の個別インタビューで、山梨県が質問を制限した問題だ。内容の事前提出を求め、自民党政治資金パーティー裏金事件の関連を削除しないと取材に応じないと通告した。

 元衆院議員の長崎氏は、現在も自民党二階派に在籍する。自身が代表を務める資金管理団体は、二階派から寄付金1182万円を受けていたのに、政治資金収支報告書に記載していなかった。

 長崎氏は記者会見で「回答を差し控える」などと述べていた。報道側がインタビューで、裏金事件や不記載に対する認識を問うのは当然だ。それなのに、県側は削除に応じなかった社のうち、地元民放1社の取材を実際に拒否した。

 政治家や行政が意に沿わない質問を受け付けないなら、不祥事などの政治問題を主権者から遠ざける。選挙の投票行動にも影響して民主主義を脅かす。あってはならない行為である。

 山梨県記者クラブは「意に沿わない報道に圧力をかけた」と抗議文を提出。新聞労連も「言論の自由を保障した憲法に違反する」と抗議声明を発表している。

 最終的に県側は報道各社に文書で謝罪した。ただ、文書は広報を担当する知事の政策補佐官名で、長崎氏の責任に触れていない。

 長崎氏は質問封じが表面化した後、自身の関与を否定し、県側の対応も「問題なかった」と述べていた。県会本会議ではインタビュー取材は定例会見の「付加的なサービス」と主張している。

 直接のやりとりを通じて問題を正面から問うインタビューを受けるのは「サービス」ではなく、公人の務めである。長崎氏は一連の経緯を改めて説明するべきだ。

 徳島市でも2月上旬、市長の定例記者会見の直前、市職員が徳島新聞の記者に対し、同市長選に関する質問をしないよう要請したことが分かっている。

 石川県では昨年、馳浩知事が地元民放への不満から、決まった日時に開いていた定例会見をとりやめた。県側が発表事項がある時に開く形に切り替えて、「会見が行政に都合の良い広報になる」と批判された。

 報道や「知る権利」を軽視する風潮が地方で広がる背景に、官邸の首相会見で、出席者を制限したり、再質問を禁止したりしていることが波及したとの指摘がある。自由な取材と報道が民主主義の基本であると、国も自治体も改めて認識する必要がある。